捧げものと企画文

□ライジング予告編からの妄想話
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妄想話その1



社長室の前に立った虎徹は帽子を取ると、居住まいを正した。
中で彼を待つ新オーナーのマーク・シュナイダーとは初対面だ。
若くして成功を収めたカリスマ実業家として名前くらいは聞いたことがあるものの、虎徹にとっては縁遠い世界の話で。
今日自分が呼び出された理由をあれこれ想像しては、朝から虎徹の胃はキリキリと痛んだ。

「失礼します」

一礼して中に入ると、シュナイダーは冷ややかな視線を虎徹へと向けた。

「あ、あの、はじめまして」
「君がワイルドタイガー、鏑木・T・虎徹くん?」
「はあ、そうです」
「新オーナーに就任したマーク・シュナイダーだ。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

愛想笑いを浮かべる虎徹に対してニコリともせず、シュナイダーは社長室のイスから立ち上がった。

「さっそくだが、本題に入らせてもらう。私がこの会社のオーナーに就任して一週間あまり、その間にいろいろと事業も見直し、社の立て直しをはかっているわけだが…」
「はあ…」
「ヒーロー事業部も例外ではない」

含みのある物言いに虎徹は眉をひそめた。

「…それって、どういうことッスか?」
「今、君たちは二部リーグにいるわけだが、まずは一部リーグに昇格させようと思っている」
「え!?それ、本当ですか?よかった。きっとバニーも喜ぶと」
「ただし、昇格するのはバーナビーくんだけだがね」
「…ッ…」
「まさか、ワンミニットの君が一部で活躍できるとでも思っているのかね?」

まるで、冷や水を浴びせられた気分だった。
虎徹だってそれくらい分かっている。
だが、だからと言ってその事実を受け入れられるかと言えば、それはまた別の話だ。

「バーナビーくんには新しい相棒とコンビを組んでもらおうと考えている」
「新しい、相棒…ですか?」
「彼はまだ若くて才能もある。このまま、二部で埋もれさすのは惜しい。君もそう思うだろう?」

『もう一度、一部でやりたいですね…』

虎徹の脳裏に、あの日のバーナビーの呟きが蘇った。

「…そう、ですね」

そろそろ手離す時期が来たのかもしれない。
シュナイダーの話を聞きながら、虎徹はそんなことを考えていた。

「分かりました。コンビは解消ってことで俺は構いません」
「君が物分かりのいい男で助かったよ」
「…いえ」

それから君の今後についてなんだが、と続いた言葉に虎徹の目は大きく見開かれた。



その日は事件もなく、定時に仕事を終えた虎徹はまっすぐに自宅へと向かった。
午後から外回りに出たまま帰ってこないバーナビーとは顔を合わせていない。


『君もそろそろ後輩に道を譲ってはどうかね?』
『それって…』
『額面通りの意味と受け取ってもらってかまわない』
『…俺に引退しろと?』
『まあ、今すぐとは言わないからゆっくり考えてみて欲しい』

遠回しではあるが、オーナー直々の申し渡しということは事実上の引退勧告というわけだ。
ワンミニットの能力しかないヒーローをいつまでも雇うわけにいかない。
それが経営者としての判断なのだろう。

「容赦ねーよなぁ。現実ってのは」

力なく呟いた虎徹は頭上に広がるシュテルンビルトの街の空を見上げる。
いつもなら手を伸ばせば届きそうな空が、今の彼にはとても遠くに感じられた。





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