捧げものと企画文

□屁理屈ばかりの彼のセリフ 5題
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  1.好きとか嫌いとかの問題じゃありません



嫌われているのだと、思う。
いや、百歩譲ったとしても到底好かれているとは思えない。
相方としてコンビを組むことになったバニーの話だ。
移動中のトランスポーターの中、俺の正面に座って目を閉じている金髪巻き毛のイケメンヒーロー様は今日もご機嫌斜めでいらっしゃる。
出動要請を受け、無事に仕事を済ませた帰りなのだから、もう少し和やかな雰囲気を醸し出してくれてもいいだろうに。
今日は俺、別にドジったり、ミスをしてあいつの足を引っ張ったりした覚えはないんだけどなあ。
すでにどちらも私服に着替えていて、あとはアポロンメディア社に到着するのを待つだけなんだが…そのわずかな時間が苦痛でたまらない。
黙り込んだまま、口を開かないバニーのせいで車内の空気が妙に重苦しいのだ。

「…なあ、バニー」

耐えかねた俺が話しかければ、薄く開いたグリーンの瞳が面倒臭そうにこちらへと向けられた。

「なんです?」

心臓に突き刺さるような冷たい声。

「なに怒ってんだよ?」

バニーと違って察しの悪い俺はこんな風にしか相手の気持ちを確かめられない。
案の定、あいつは形のいい眉をひそめ、ますます不機嫌な顔になった。

「…別に、怒ってなんかいません」
「いや、怒ってんだろ?さっきからずっと怖い顔して黙ってるし」
「人の気持ちを勝手に判断しないで下さい。話したくないから黙っているだけです」
「けど…」

返された答えに納得できず、更に言い募ろうとした俺をバニーは今度こそきつく睨みつけた。
本格的に怒らせてしまったとちょっぴり後悔はしたものの、その理由さえ教えてくれないのだから俺だってどうしていいか分からない。

怒る理由もないのに顔も見たくない、口も聞きたくないなんて。
そんなの、原因は一つしかないだろう。
いくら単純で鈍い俺にでも、そのくらいは想像できる。

「…お前ってさ、ほんっとに俺のこと嫌いなんだな」

苦笑混じりにそう呟けば、バニーは大きく目を見開いた。
心外そうに歪めた表情で天井を仰ぎ見た彼は、やがて静かにため息をついた。

「…好きとか嫌いとかの問題じゃありません」

ため息と共に吐き出された意味深な言葉に、俺の思考回路はたちまちショートした。





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