本屋パロシリーズ

□鏑木書店へようこそ!12
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カランカランと来客を告げるベルの音がして、虎徹は読みかけの本から顔を上げた。

「遅いぞ、アントニオ」

パタンと本を閉じ、立ち上がる。

「悪い、悪い。ちょっといろいろあってな」
「すまない、虎徹くん」

右手を顔の前にかざし、申し訳無さそうに巨体を縮めるアントニオの後ろからキースがひょいと顔を出した。

「なんだ、お前も一緒だったのか?」
「こいつもたまにはお前と飲みたいんだと」
「ったく、どうせならキレイなお姉さんとかにしてくれよ。野郎ばっかで飲んで何が楽しい」

呆れたように肩を竦ませた虎徹にもキースは笑みを崩さない。
端正な顔つきの彼はこうして見ると中世のナイトのようで、女生徒に人気があるのも分かるなと虎徹は密かに思う。

「キレイと言うなら、バーナビーくんを連れてくればよかったかな?」
「だっ、なんでそこでバニーの名前が出てくんだよ!」

ブッと飲みかけの缶コーヒーを吹き出した虎徹にアントニオが目を丸くする。
盛大にむせながら涙目で抗議する彼にキースもまた目を瞬かせ、 首を傾げた。

「何をそんなに焦っているんだい?」
「…るせー!」

自分でも過剰反応だという自覚はあったのだろう。
息を整えるふりをして後ろを向いた虎徹を見て、アントニオは苦笑した。

「…んで?」
「何だ?」
「あいつは、バニーはその、うまくやれてんのか?」

頭をかきながら、ポツリと虎徹が尋ねる。
ああ、とアントニオは頬を緩めた。
この不器用な親友の、不器用な心遣いはいつもながら温かい。

「バーナビーなら心配いらないぞ。あいつは自分が一人じゃないことを知った」
「……」
「だからもう、大丈夫だ」

力強いアントニオの言葉に、虎徹はそっか、とだけ呟いた。




バーナビーの失踪事件は虎徹やアントニオ、友人達のおかげで大事に至らずに済んだ。
数日の間は校内でも様々な噂が飛び交ったが、それほど大きな騒ぎにはならず、いつしか話題にも上らなくなり、一応は一件落着という形に落ち着いた。

当のバーナビーだが…。
心の整理をしたいと告げた彼はしばらく休学し、最近になってようやく通学を再開したと聞いている。

(まあ、まだまだ抱えてるもんは山ほどあんだろーけどな…)

バーナビーがどんな風に自分の中の葛藤と折り合いをつけたのか、虎徹にも分からない。
だが、少々のわだかまりを残しつつも、彼が踏み出した一歩を見守りたいと虎徹は思っていた。

「ま、そんなすぐには解決しねーわな」
「…そのために俺達がいるんだろ」
「ちぇっ。ちゃっかり人のこと利用しやがって」
「よく言うなあ。お前が勝手に首突っ込んだんじゃないか」
「う、そりゃあ…」

即座にアントニオに返されて、ぐうの音も出ない虎徹をキースが励ます。

「確かに。君は根っからのお人好しだからね」
「お前に言われたくねーよ!」
「だな‥」
「え?え?」

二人にじっと顔を見られて、キースが訳が分からないと言った表情を浮かべる。
天然とは素晴らしいな、と心の中で同時に突っ込む虎徹とアントニオだった。

「さてと、そろそろ行くか」

アントニオが切り出し、虎徹が頷く。

「ちなみにどこへ行くんだい?」
「んー、そうだな。アントニオの奢りだし、お前の行きつけの店でいいぜ」
「いいのかい?えらく気前がいいんだね」

ニコニコと笑みを張り付けて聞いてくるキースはやはり最強で。

「いいんだよ。こいつにはでかーい貸しがあるんだからな」

そう言って、悪戯っ子のように目を細めて笑う虎徹にも、どうせアントニオは適わない。

「お前らなあ!」

最初からこうなることが分かっていて二人を誘ったのは自分自身だ。
何を言っても無駄だと悟った彼は肩を落とし、盛大に溜め息を吐いた。

「…ああ、もう。分かったよ!俺が奢りゃいいんだろ!」

ヤケクソのようにアントニオが吐き捨てる。

「給料日前なのに悪いね」

キースが放った一言にアントニオは憮然とした表情を浮かべ、そして虎徹は爆笑した。









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