本屋パロシリーズ

□鏑木書店へようこそ!16
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授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、一気に教室内が騒がしくなる。
慌ただしく帰り支度を始める者や部活の準備に追われる者、ザワザワと賑やかな放課後の教室でバーナビーは一人ぼんやりと窓の外を眺めていた。

「ハァー…」
「朝から何をそんなため息ばっかついてんのよ?」

不意に横から話しかけられ、反射的にそちらを向く。
視界の端に腕組みをしたカリーナを捉えたバーナビーは再び窓の外へと視線を戻した。

「…僕のことなんてほっといて下さい」
「あのねぇ、いい加減鬱陶しいの!」

カリーナはキツい口調でまくし立てると、前の席に腰を下ろす。

「朝からずーっと後ろの席でため息つかれたら、私だって気になるわよ!」
「…迷惑かけたんなら謝ります」
「誰も迷惑なんて言ってない!」
「ああ、心配ならしなくても‥」
「だから!その敬語もなんか、超ムカつく!」
「すいません。癖なんで‥」

いつもなら反論が返ってくるだろうに、力無くうなだれたままのバーナビーを見てカリーナは困惑気味に首を傾げた。

「あんた、ほんとにどうしちゃったの?」

落ち込んでるんなら相談に乗るけど、と心配そうに切り出されバーナビーはまた一つ、深いため息を吐いた。

「じゃあ、あの‥一つ聞いていいですか?」
「いいけど、なに?」
「カリーナには好きな人いますか?」
「はあ!?」

バーナビーの突拍子のない質問内容は彼女の予想の範囲を超えていたようで。
大きな叫び声を上げたカリーナは、真っ赤になって固まってしまった。

「な、なんで、あんたにそんなこと聞かれなくちゃいけないのよ!」
「相談に乗るって言ったのはあなたの方ですけど‥」
「い、意味分かんない!」
「だから、…いえ、いいです」

諦めたように机の上で組んだ手を見つめるバーナビーを見て、カリーナは少し冷静さを取り戻す。

「あのさ、もしかしてあんた、好きな人でも出来た‥とか」

何気なく呟いた一言にバーナビーは勢いよく、顔を上げた。

「えぇ?やだ、うそ!?」

驚いたカリーナが口元を手で覆う。

「‥あんた、恋してるんだ」
「恋、なんでしょうか?」

呆然としたバーナビーの様子に突っ込むことも忘れ、思わず彼女はまじまじと目の前のハンサムを凝視した。



「で、気になる人が出来たってわけね?」
「はい。初めて会った時はどちらかというと嫌いだったんです」

ふーんと相槌を打ちながらカリーナが頷く。

「でも、何度か会って話すうちに少しずつ打ち解けてきたっていうか‥」
「‥確かに、あんたにとっちゃスゴいことよね」
「それが‥」

不意に切ない表情を浮かべて、バーナビーはこの日何度目になるか分からないため息を吐いた。

「ここ最近、その人を前にすると胸が苦しくなって‥今までみたいに普通に会話が出来ないんです」
「‥そうなんだ」
「それでどう接していいか分からなくて、つい喧嘩腰な態度を取ってしまって」
「あー‥分かる、分かる」
「こんなの僕らしくないって思うのに…」

落ち込み、頭を抱えるバーナビーはいつものクールな彼らしくない。
だが、こんな風に悩み苦しむ彼の方が親近感がわいてくるというものだ。
誰かさんのお節介焼きが移ったかなあと思いながら、カリーナは助言をすべく口を開いた。

「それって、恋よ」

きっぱり言い切ると言葉を続ける。

「その人に会いたくてたまらないんじゃない?」
「…ええ、そうです」
「で、いざ目の前にするとドキドキしちゃう」
「確かに」
「ほんとは好きなのに、つい心にもないこと言ったり‥」

それはつまり、とカリーナは噛んで含めるようにバーナビーに語りかけた。

「あんたはその人のことが好き。すなわち恋してんのよ」

なる程そうだったのか、とようやく己の不可解な感情に合点がいく。
カリーナの言葉はバーナビーの胸の奥底に不思議なくらい、ストンとはまり込んだ。

「で、相手は誰なの?」

興味津々に尋ねられ、ハッと我に返る。

「それは‥」

とっさに脳裏に浮かんだ人物の名を、今ここで告げるわけには行かない。
口ごもったバーナビーにカリーナも悪いと思ったのか、それ以上問い詰めることはしなかった。

「まあいいわ。友達として、あんたの恋を応援してあげる」
「ありがとうございます」

憑き物が落ちたようにスッキリした表情を浮かべるバーナビーの恋路は、きっと前途多難だ。
だがそれでも、訳も分からずイライラとした感情に振り回されるよりはよっぽどいい。
少なくともバーナビーはそう考えている。

「それで、カリーナは?」
「えっ?」
「あなたは好きな人いないんですか?」
「‥なっ…」

爽やかな笑顔と共に投げ掛けられた質問に、カリーナの顔が再び赤く染まった。








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