本屋パロシリーズ

□鏑木書店へようこそ!17
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「ねーねー、来週の月曜日さ、カリーナも遊園地に行こうよ」

昼休み、次の授業の準備をと机の中をのぞき込んでいたカリーナの頭上から、可愛らしいおねだりの声がする。
顔を上げると、パオリンが丸い大きな目を輝かせてこちらを見下ろしていた。

「急にどうしたの?」

来週の月曜日は彼女達の学校の創立記念日で、確かに学校は休みだが。
そう言えば、前にもそんなことを言っていたなと思い出したカリーナの後ろの席にパオリンは腰を下ろした。

「バーナビーは?」
「さあ…。さっき出てったっきり戻らないけど」
「じゃ、席借りてていいね」
「いいんじゃない?」

それで、遊園地だっけ?と振り向きざまにカリーナが尋ねると、パオリンの顔がたちまち明るくなった。
嬉しそうに笑う彼女を見ていると行かないとは言い出せなくなる。
いつもこんな風に誘いを断りきれずにカリーナはパオリンと出掛けることが多かった。

そして、同じように断りきれない人物がもう一人…。

「で、メンバーは?」
「もちろん、イワンは行くんだけど」
「あー、やっぱりね」

苦笑したカリーナにもう一人、意外な人物の名が告げられた。

「今回はタイガーさんも一緒なんだよ」
「えぇっ!?」

ドキッと高鳴った胸同様、思わず驚きの声が出た。
あ、と慌てて口を塞いだカリーナが恥ずかしそうに周りを見回す。

「な、なんで、あいつが一緒に行くわけ?」
「ああ、たまたまタイガーさんの店でイワンと遊園地に行こうかって話をしてたら、俺も行くってなったんだ」
「…マジで?」
「ボクらだけじゃ心配だから、って」
「何それ、子供扱いはやめてよね」
「でもそう言いながら、タイガーさん自分が一番楽しんでそうだけどね」
「…あり得る」

虎徹の目的が、パオリン達の付き添いを口実に遊びたいだけなのは見え見えだ。

「だからさ、カリーナも一緒に行こうよ」

駄目押しのように言われたカリーナは浮かれた心を悟られないよう、少し間を置いてから口を開いた。

「し、仕方ないから付き合ってあげる」
「よかったー!どうせ行くなら賑やかな方がいいもんね」
「え?他にも誰か行くの?」
「うん。バーナビーも行くって」
「えぇ!?あいつ、行くんだ?」
「ボクもビックリしたんだけどね。でも声をかけてよかったよ」
「ふーん…」

詳しいことが決まったら連絡するから、と立ち上がったパオリンと入れ替わるようにバーナビーが戻ってきた。
黙って席に着く彼の気配を感じながら、カリーナは言いようのない違和感を覚える。

(あいつ、なんで行くんだろう?)

いくらカリーナ達がバーナビーと仲がいいとは言っても、一緒に出掛けるほど親密な関係ではなかったはずだ。

(タイガーが行くから?)

振り返り、訳を聞けば答えは得られるかもしれない。
なのに、それが出来ない。

予鈴が鳴り、やがて授業が開始されても拭うことの出来ない違和感にカリーナはずっと悩まされ続けた。




当日、天気は快晴でお出かけ日和だった。
予定ではいったん虎徹の店に皆が集まり、彼の車で遊園地まで向かう手筈になっている。

「おはよう!」
「おはようございます」

次々にメンバーが姿を見せ始め、店の前はいっぺんに賑やかになった。

「よーし、みんな揃ったら出発すんぞ!」
「はーい!」

やがて彼らを乗せた車は一路、目的地目指して走り出した。




車内でも明るい笑い声が耐えないまま、あっという間に遊園地に到着する。
まずはみんなで記念撮影をし、その後は各自自由行動することとなったため虎徹は彼らに集合時間を告げた。

「一応、昼の12時にここへ集合な。そんで昼飯はみんなで一緒に食うことにしよう」
「分かった!」

真っ先に返事をしたパオリンはさあ、行こう!とイワンを引きずるようにお目当てのアトラクションへと行ってしまった。
残された虎徹とバーナビー、カリーナの三人は呆気にとられて二人を見送る。

「‥俺達も行くか」
「はい」
「う、うん」

何となく気まずい空気を感じながらも、気づかない振りをしてカリーナは歩き出した虎徹達の後を追った。
いくつかアトラクションを楽しんだ所で、不意に小さな人工池がカリーナの視界に飛び込んでくる。
これだ、とばかりに彼女は虎徹の腕を取ると池に向かって歩き始めた。

「あ、あれに乗りましょ!」
「あれって、ボートか?」
「うん…」
「別にいいけど」

言いながら虎徹がチラッとバーナビーを伺う。
もちろん、ボートは二人乗りだ。

「僕はかまいませんよ。そこのベンチで休んでますから、どうぞお二人で楽しんで来て下さい」
「そっかぁ、悪いな」
「いえ…」

そしてカリーナはというと、バーナビーを一瞥もせず虎徹を連れてさっさとボート乗り場へと向かってしまった。


二人を乗せたボートが岸を離れて動き出す。
オールを手にした虎徹が漕ぎ出すと、水しぶきをあげながらボートはゆっくりと走り出した。

「なあ、よかったのか?」

しばらく黙って漕いでいた虎徹が手を止め、カリーナに問いかける。

「なにが?」
「いや、俺じゃなくて本当はバニーと乗りたかったんじゃないのか?」
「はあ!?なに、それ?」

虎徹の意外な言葉にカリーナは眉をひそめ、険しい表情を浮かべた。

「つーか、最近お前ら二人が仲いいって噂聞いてんだぞ。実際のところはどうなんだよ?」
「…っ!」
「バニーと付き合ってんのか?」

ダンッ!と大きな音を立て、勢いよくカリーナが立ち上がった。

「ふざけないで!」
「わっ、バカ!危ないだろ」
「あんたのそういう無神経なとこが大っ嫌い!」

叫んだ拍子にグラグラとボートが揺れ、バランスを崩したカリーナを虎徹はとっさに抱き止めた。

「キャーッ」
「動くな!じっとしてろ!」

ギュッと抱き締められた腕の中でカリーナの心臓が早鐘のように脈打つ。
ああ、やはり自分はこの男が好きなのだと再確認する彼女の耳元で、虎徹は小さく呟いた。

「…そういや、バニーにも同じこと言われたな」
「え?」
「俺が無神経だって‥」

ゆっくりとカリーナの体を離した虎徹の顔が困ったように歪められている。

「気に障ったんなら謝る。悪かった」
「わ、私は別に…。バーナビーとは何でもないって、そう言いたかっただけ」
「そっか…。早合点してほんと悪かったな」
「…もういいから」

岸に戻った二人は何事もなかったかのように、再びアトラクションを楽しみ始める。
そんな彼らを見つめるバーナビーの瞳に、ある感情が芽生えていることに気づいたのはきっとカリーナも同じ思いを抱いていたからだろう。

「ねえ、バーナビー」
「何です?」
「あんたの好きな人って、もしかして‥」
「カリーナこそ」

言葉に出さなくても分かる。
互いに想い人が同じなら、先日の話にも納得がいく。

「‥強力なライバル出現ってとこね」
「僕をライバルと認めてくれるんですか?」
「悔しいけど、仕方ないじゃない」

ニコリと笑ったバーナビーにつられてカリーナもまた、笑みを浮かべる。

−−フェアプレイでいきましょ。

「おーい!バニー、カリーナ行くぞ!」

遠くから手を振り自分達を呼ぶ虎徹に向かって、二人はよーい、ドン!で駆け出した。








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