本屋パロシリーズ

□鏑木書店へようこそ!18
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「なあ、バニー。お前さ、甘いもん好きか?」

何気なく発した虎徹の問いかけ。
それがすべての始まりだった。





『チョコレートパニック』





いつものように訪れた虎徹の店で、本を物色していたバーナビーは恐る恐る後ろを振り返った。

「‥いきなり何ですか?」
「いや、何って‥そのまんまの意味だけど」

少ししどろもどろになりながら、弁解がましく答えた虎徹の態度は見るからに怪しい。

「別に好きでも嫌いでもありません」
「あっそ‥」

愛想のない返答に意外とあっさり、虎徹は引き下がった。

「それがどうかしたんですか?」
「あ、いや別に。ちょっと聞いてみただけだ」
「……」
「ほら、たまにネイサンがドーナツ買ってきた時とかさ、お前美味そうに食ってっからあーいう甘いもんが好きなのかと思ってな」
「…ふーん」

眼鏡の奥のグリーンアイが訝しげに虎徹を見つめる。
これ以上、会話を続ければ確実に墓穴を掘ってしまいそうだ、とでも判断したのか。

「あ‥ちょっと俺、用事を思いだしたわ」

ゆっくりしてけよ、そう言い残し、虎徹はそそくさと店の奥へと引っ込んでしまった。
その背中を呆れたようにバーナビーは見送る。
隠しごとが出来ない人だとは思っていたがここまでくると尊敬に値する。

―今度はいったい何を企んでるんだか。

手に取った本を書棚に戻しながらバーナビーは軽くため息をついた。



***



「ねえ、バーナビー。あんたって甘いもん好き?」
「……またですか?」

休み時間になると同時に尋ねられたバーナビーは、心底うんざりといった様子で眉をしかめた。

「またって何よ?」
「その質問をされるのは二度目なんで」
「‥あっそ、モテる男は違うわね」

バーナビーの返答にカリーナもまた嫌味を返す。

「ちなみに誰に聞かれたの?」
「…別に、誰だっていいでしょう」
「よかないわよ。私あんたと仲がいいと思われてるらしくって、いろんな子に聞かれるのよ」
「何を?」
「あんたがチョコを好きかってこと」
「甘いものの次はチョコですか。まったく大きなお世話だ」

この話題はもう終いだとばかりに単行本を取り出し読み始めたバーナビーに、カリーナはなおも問いかける。

「…ちょっと聞いてもいい?」
「何です?」
「2月14日って何の日か知ってるわよね」
「バレンタインデーです」
「…知ってるんじゃない」
「もちろん。毎年バカみたいにチョコをもらってますから。だからこの時期はあまり好きじゃない」

サラリと言ってのけた目の前のハンサムを彼女はキツく睨みつけた。

「あんたって女の敵ね」
「そりゃ、どうも」

何を言っても動じないバーナビーに思わず、カリーナの顔が引きつる。

「‥まあ、いいわ。でもそのもう一人ってのが気になるわね」

カリーナはうーんと考え込むように疑問系で呟いた。

「だって、それってあんたにチョコをあげようと思ってるってことでしょ?」
「は?」
「は?じゃないわよ。この時期にそんなこと聞くなんて、あんたのこと好きだからに決まってるじゃない」

不意にバーナビーが顔を上げ、彼女を見た。
その表情は驚きを通り越して驚愕に近い。

「‥あんたって、頭いいのに時々ビックリするほど鈍いのね」

ほっといて下さい、と答えたバーナビーの心中は穏やかではなかった。

(まさか、オジサンが僕のことを‥?)

ザワザワとした感情が次第に激しい動悸へと姿を変え始める。

(くそっ、静まれ!)

期待する心とは裏腹に、そんなはずはないともう一人の自分が否定する。
期待しては裏切られ続けた過去が、バーナビーから一歩踏み出す勇気を奪っているのかもしれない。
感情を押し殺すように黙り込んだ彼は静かに本を閉じた。

「…ちなみに私は」

カリーナが話し始めたので仕方なく、バーナビーは彼女に視線を向ける。
挑戦的な眼差しが自分へと向けられていて、ひどく居心地が悪かった。

「タイガーにチョコをあげるつもりだから」

正々堂々と宣言するところは実に彼女らしい。

「一応言っとく」
「‥どうぞ、ご自由に」

あんたはライバルだからと笑って告げるカリーナに、バーナビーはただ苦笑するほかなかった。





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