長編
□しらじらと明けていく夜7
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あの悪夢のような出来事から数週間が経過しようとしている。
仕事の関係上、嫌でも毎日顔を合わせているが、虎徹の方からあからさまに避けられることもなく、バーナビーは内心どこかでホッとしていた。
相変わらず、頻度はそれほど多くはなさそうだったが虎徹の接待は続いているようだ。
だが、それを問い詰める資格を失ったバーナビーにはただ、側で彼を見守ることしか出来なかった。
そう言えばあれ以来、虎徹はこのトレーニングルームに姿を現していない。
体調は大丈夫なのだろうかと考えてから、ハッと我に返り頭を振る。
(あんな人のことを気にするなんて、僕もどうかしてる)
「ねえねえ、ハンサム?ちょっとアンタに聞きたいことがあるんだけど」
いつものようにトレーニングを終えてシャワールームに向かおうとしていたバーナビーは、不意にネイサンに呼び止められた。
「何です?」
「タイガーのことなんだけど」
そう切り出されて、バーナビーの顔にあからさまな嫌悪の表情が浮かぶ。
「彼、最近どうしちゃったのよ?トレーニングには来ないし、現場で会っても暗い顔してるし」
小首を傾げたネイサンがベンチに腰掛けたので、バーナビーも仕方なく隣りに腰を下ろした。
「何でそんなこと、僕に聞くんです?彼に直接聞けばいいじゃないですか?」
「そうなんだけど、アンタ達ってコンビじゃない。もしかしたら何か知ってるかと思って」
何気なく漏らした言葉だったのだろうがバーナビーは内心、ドキッとした。
だが、気遣わしげなネイサンの表情からは他意は感じられない。
「なんか、ちょっと気になるのよ」
「何がです?」
「んー、様子が変っていうか…」
回りくどい説明に苛立ちを覚えたバーナビーだったが、虎徹の不調の原因は自分にもあるのだと思い直し、素直に問い返す。
「もう少し僕にも分かるように話してもらえませんか?」
逆に質問で返されたネイサンはしばし考え込むように黙り込んでいたが、やがて躊躇いがちに口を開いた。
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