長編3
□夜の闇に抱かれて(R)
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こうして始まった虎徹の第二のヒーロー人生。
一番こだわりの強かったスーツに関しては、思ったよりも早く今のものに馴染んでしまった。
確かに憧れのレジェンドに対するリスペクトがこめられたあの旧スーツに思い入れはある。
だが、虎徹は一見頑固そうに見えて意外と柔軟性は高い。
メカニックの斎藤に一通りの説明を受けてからは、使い勝手のよいニュースーツを気に入っていた。
―ただ、問題は…。
「バニーちゃん、なんだよな…」
なんせ最悪だったもんな、と虎徹は最初の二人の出会いを思い出し、頭を抱えた。
『あなたはもう時代遅れなんですよ、オジサン』
犯人を確保するどころかお姫様抱っこで助けられ、逆に説教される始末。
それも、まだデビュー前の新人の若造にだ。
情けないったらありゃしない。
おまけにその後も彼には言いたい放題言われている気がする。
そう、例えば…。
『僕はあなたを信じていません』
(普通、本人を目の前にして言うかねぇ…)
『本当はあなたとコンビなんて組みたくなかった…でも会社命令なので』
さすがにそうまで言われた時は頭に血が上りかけた。
「俺もだよ」という言葉をかろうじて飲み込んだものの、こんな奴とコンビなんて組めるのか?と疑問に思ったものだ。
「…ったく、年上で先輩の俺を『オジサン』呼ばわりだもんなあ。こっちこそ、コンビなんて願い下げだっつーの」
悪態をつくと、虎徹はパソコンの電源を切り立ち上がった。
バーナビーは取材、経理の女史は外出中で一人きりのオフィスは静かなものだ。
自販機でコーヒーでも買ってくるかと虎徹が歩き出した時、ちょうど取材から戻ってきたバーナビーと部屋の入り口で鉢合わせになった。
「あ…」
なんというタイミング。
舌打ちしたくなるほどの間の悪さに、思わず眉間に皺が寄る。
そんな虎徹を一瞥したバーナビーはニコリともせずにこう言った。
「またサボりですか?」
「……」
ロイズからは、年上の自分が年若い後輩を引っ張ってゆくよう言われている。
だが…と心の葛藤を繰り返し、虎徹はようやく腹をくくった。
どうせここでヒーローを続ける限り、バーナビーとコンビを組むことになる。
(…なら、ここは大人である自分が彼に歩み寄るしかないか)
「あ、あのさ、バニー。俺達コンビなんだし、互いの携帯番号くらいは交換しとかないか?」
突然の申し出に、バーナビーは露骨に嫌な顔をした。
「は?急に何を言い出すかと思ったら…そういうことでしたらお断りします」
「え?」
「まず、今のあなたの言葉、僕の質問の答えになってませんよ」
「…いや、だからさ」
「だいたい緊急時ならPDAで連絡取ればいいでしょう」
「そうかもしんねえけど…」
「はっきり言わせてもらえば、僕はあなたとはプライベートな関わりを持ちたくありませんので」
「…!」
取り付く島もなくそう言われ、虎徹はその場に呆然と立ち尽くした。
では、とすれ違いかけたバーナビーが振り返る。
「それとあと一つ」
「…なんだよ?」
「僕はバニーじゃありません」
完璧なまでの拒絶にさすがの虎徹も何も言い返せなかった。
「っだ!」
―こんなんで、この先うまくやってけんのか?
一抹の不安を抱えながら、虎徹もまたバーナビーに背を向け、部屋を出た。
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