長編3
□STEP BY STEP
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廊下に出て辺りを見回したが、すでにバーナビーの姿は見えなかった。
チッと舌打ちすると彼を探して歩き出す。
(ありゃ、まずかったよな…)
失敗したと素直に反省しながら、虎徹はバーナビーの行きそうな場所をしらみつぶしに探し始めた。
彼が「目を見れば相手の心の声が聞こえる」という第二のNEXT能力に目覚めてからというもの、虎徹は時折、不用意な一言でこんな風にバーナビーを怒らせてしまう。
特に悪気はない。だが、無神経な自分が繊細な彼を傷つけているのは確かなようだ。
相手は自分に告白をし、いまだ好意を持ち続けているというのに。
(その気持ちを疑うようなこと言っちまった…)
虎徹の「好き」とバーナビーの「好き」は微妙に違う。
それが彼を苦しめているのだと分かっていても…。
「こればっかりはどうしようもねーもんな」
こんな時に限ってバーナビーは見つからない。
諦めてオフィスに戻ろうとした虎徹は、数メートル先の自販機置き場で微かに揺れる金髪を見つけた。
「あいつ…」
つかつかと歩み寄り、バニー!と声を掛ければ鋭い目つきで睨まれる。
「休憩終わり。あんまサボってると、おばちゃんにどやされっぞ」
「……」
「ほら、戻るぞ」
「…ほっといて下さい。第一、あなたには言われたくありませんね」
手の中の缶コーヒーを飲み干すと、バーナビーはぐしゃりと缶を握りつぶした。
「…さっきのは俺が悪かった」
「…別に謝らなくて結構です」
「お前の気持ち知っててからかったわけじゃないんだ」
「だから、もういいですって」
「俺、迂闊だからさ、すぐお前の能力のこと忘れちまって…」
「……」
「バニー?」
「僕だって分かってるんです。あなたが僕に対して相棒以上の感情を持ってないってことくらい…」
どこか投げやりに吐き出された言葉を聞いて、なぜだか虎徹の胸がズキリと痛んだ。
「僕が勝手に期待して、そのたびに落ち込んでるだけなんですから。あなたは何も悪くない」
「…バニー、俺さ」
「…もう戻ります」
伸ばしかけた手を遮るように、バーナビーが背を向ける。
一度も目を合わさないのはそれだけ彼が傷ついているという証だ。
そして、その原因である自分が何もしてやれないことが虎徹にとっても辛くて苦しい。
「こんな能力、ない方がよかった…」
去り際に残された捨て台詞が、とどめを刺すように虎徹の心を鋭く抉った。
つづく
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