長編3

□たとえ君が思い出になっても
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先に復帰していた虎徹に続く形で、バーナビーもまたヒーロー業界に舞い戻った。
そしてシーズン途中での復帰となった彼らは以前と同様、アポロンメディア所属のヒーローとして、2部リーグに在籍することとなった。
復帰に当たり問題視されていた身体能力の衰えはトレーニングによりすぐに改善したが、実戦感覚となれば話は別だ。
おそらく実戦での勘は容易くは取り戻せないだろう。誰もがそう思っていた。
しかしながら現場から長らく遠ざかっていたことへの不安を抱きつつ、復帰を果たしたバーナビーだったが、そこはかつてKOHにまで上り詰めた男である。
何度か出動を繰り返すうちに、これまたすぐに勘を取り戻した。
どころか出動回数を重ねるにつれ、最近では物足りなささえ感じ始めている。

基本的に2部リーグと1部リーグでは取り扱う犯罪が違う。
凶悪犯罪を扱う1部に比べ、主に軽犯罪を取り扱う2部の世界は、華やかな活躍の舞台に身を置いてきたバーナビーにとっては地味で退屈に感じられた。
もちろん、虎徹にこんな愚痴はこぼせないが…。
根っからのヒーロー気質の彼のことだ。

「市民守れりゃ、1部でも2部でも構わねーよ」

そんな答えが返ってくるに違いない。
どのみち、このシーズンが終わるまでは1部復帰は有り得ないのだ。
なら、その時までは虎徹と居られる時間を有意義に過ごそう。
そう気持ちを切り替え、バーナビーは日々ヒーロー業に励むのだった。



     ***


その日もこれといった事件もなく、出動要請のないまま定時で仕事を切り上げた虎徹はいつものように食材を買い込み、バーナビーの自宅を訪れていた。
今日の夕食当番はバーナビーなので、虎徹は食材を手渡すと大人しくリビングに向かう。

「久しぶりにお前のチャーハンが食いたい」と虎徹が言えば、バーナビーは嬉しそうに笑って頷いた。



「どうぞ、召し上がれ」
「おう、いただきまーす」

虎徹が頻繁に訪れるようになってから買ったテーブルにバーナビーお手製のチャーハンが並ぶ。
すっかり腕を上げた彼ご自慢の、美味そうに湯気を立てているご飯を一口スプーンにすくい、口に放り込めば虎徹の顔は満足げに綻んだ。

「うまい」
「…ありがとうございます」

邪気のないストレートな賛辞にバーナビーの頬も自然と緩む。
バディとして背中合わせで現場に立つのはもちろん好きだが、こんな風に二人で過ごす何気ない時間もバーナビーは気に入っている。

「なあ、バニー。お前さ、ほんとによかったのか?」

幸せに浸りながらチャーハンを食べていると、不意に虎徹が尋ねてきた。

「何がですか?」
「ヒーローに復帰したことだよ」
「何を聞くかと思えば今更そんなこと、どうしたんです?急に」
「いやあ、もう気持ちの整理はついたのかなって思ってさ」

言いづらそうに口ごもる虎徹を見て、バーナビーが復帰した理由を虎徹はずっと気にかけていたのだと初めて気づいた。
同時に心の中に、虎徹の復帰をテレビで知った時の衝撃が蘇る。

「それを聞くならあなたこそ、僕に何の相談もなく復帰して…」
「あ…それは」
「あの時はショックだったな」
「……」

恨みがましい目つきで見られた虎徹は慌てて横を向く。

「…なんか、言いにくかったんだよ。ヒーローに戻ることでお前の辛い記憶を呼び覚ますんじゃねーかって思ってちまってさ」
「……」
「余計な気遣いだったかな」

現に今、こうしてバーナビーは虎徹の隣にいる。
それがすべての答えなのだと、バーナビーは目で訴えかけた。
もちろん、全く葛藤が無かったわけではない。
それでも…常にそばには虎徹がいたから、そして今も虎徹が隣にいるから。
過去にとらわれずに彼は、未来へと進むことが出来るのだ。

「いえ、嬉しいです。そうやって気遣ってくれる人はもう、あなたくらいしかいませんから」
「そんなことねーよ」
「とにかく僕は今度こそ自分で、自分の進むべき道を決めたんです。だから、あなたが気に病むことはありません」
「そうか…なら、いいんだ」

もうこの話は終いだとばかりに空になった二人分の皿を持ち、バーナビーは立ち上がった。

「今夜は泊まりますよね?」
「ああ、そのつもりだけど。構わねーか?」

もちろん、と笑ってバーナビーはキッチンに向かい歩き出した。





 つづく
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