長編3

□僕が僕であるために、君は君であればいい
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長い長い行列は他の通行人の妨げにならないよう、ロープを張った警備員が整理している。
列に乱れが生じることもなく、理路整然と進んでくる人波を虎徹は感嘆の思いで眺めた。
(たとえバーナビー目当てが大半だとしても)自分たちはこんなにも人々に愛されているのか、そんな思いが実感として湧いてくる。
現場だけではなかなか体験できないファンとのこういう触れ合いも、実は大切なのかもしれない。
人々の笑顔を見ながら、虎徹は少しだけ己の認識を改めた。

「あの、いつも応援してます」
「ありがとうございます」

チラリと盗み見たバーナビーの笑顔は明らかに営業用だ。
だがそれでもファンの人たちが満足だと言うのなら、それはそれで有りなのだろう。
途切れることのなかった長蛇の列にもやがて終わりが見え始める。
もうじきこの苦行から解放されるのだと少々浮ついた気分で、虎徹は列を見渡すように身を乗り出した。
投げかけた視線の先で、ふと一人の人物が目に留まる。
圧倒的な数の女性に混じって一人で訪れたらしいその男性は明らかに周囲から浮いていた。
グレーのパーカーを着用し、フードを深く被って顔を見えなくしているのも何となく引っ掛かる。

(俺の考え過ぎか…?)

長年の経験からくる警戒心と胸騒ぎに、自然と虎徹は身構えた。

「次の方、どうぞ」

やがて男に順番が巡ってくる。
隠すように覆われていたフードが男の手で上げられ、端正な若者の顔が露わになる。
その目が青白く光っているのを見た瞬間、虎徹は隣にいたバーナビーを突き飛ばした。

「オジサン!?」

よろめいたバーナビーに向かって伸ばされた手を咄嗟に虎徹が掴む。
途端に体の中心を衝撃が走り抜け、虎徹はへなへなとその場に崩れ落ちた。
キャーッ、と列の中から甲高い悲鳴が上がり、我に返ったバーナビーが慌てて能力を発動したがその時には男はもう元の状態に戻っていた。

「…残念。ほんとはあんたを狙ってたのに」

男が手を振り解くと虎徹の体は力なく床に横たわる。
駆け寄ったバーナビーが揺すってみても、意識は失われたままだ。

「…お前、NEXTか?」
「そうだ」
「この人に何をした?」

それには答えず、男はうっすらと笑みを浮かべながら両脇を警備員に取り押さえられていた。





つづく


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