長編3

□僕が僕であるために、君は君であればいい
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通報により駆けつけた警官に男が引き渡される。
だんまりを決め込んだ男はバーナビーがいくら問い詰めても己の能力の正体を明かそうとはしなかった。

「バーナビーくん!」

激情に駆られたバーナビーが胸ぐらをつかみ上げたところで声が掛かり、彼は後ろを振り返った。

「後は警察の仕事だ」

ロイズの静かな声にバーナビーは冷静さを取り戻した。
軽く舌打ちをし、掴んでいた手を離して倒れた虎徹のもとへ向かう。
と同時に、こんな風に取り乱してしまった自分自身に戸惑いを覚えた。

「オジサン、大丈夫ですか?」

ゆっくりと抱き起こして声を掛ける。
だが虎徹は微かに瞼を震わせただけで目覚めない。
さすがに不安になったバーナビーが顔を上げれば、同じように眉間に皺を寄せたロイズと目が合った。

「提携している病院があるから、とりあえず彼をそこへ運ぼう」

上司の適切な判断にバーナビーは黙って頷いた。

「バーナビーくんには付き添いを頼めるかな?私は社に連絡をした後、警察へ出向かなければならなくてね」
「それは構いませんが。そもそも、僕の身代わりでこんなことになったわけですし…」
「事情聴取が終わり次第、私もすぐそっちへ向かうから」
「分かりました」

不本意ではあるが、庇われた借りというものもある。
握手会は中断され、後日改めて機会を設けることとなった。
今回握手できなかったファンには整理券のようなものが配られ、詳細についてはフォートレスタワービルのホームページで発表があるとのアナウンスが行われていた。
まだざわつきの収まらない集団に警備員が解散を促しているが、興奮した彼らはなかなか帰りそうにない。
これ以上の混乱を避けるため、仕方なくバーナビーは重い腰を上げた。

「皆さん、今日はせっかく来て頂いたのに申し訳ありません」

群衆に向かってバーナビーが語り始めると、途端に辺りは静まり返った。

「こんな形で中止になるなんて僕も残念です」

あちこちでバーナビーの名を囁く女性ファンの声がする。
一呼吸置いて、彼は言葉を続けた。

「でも、また日を改めて握手会が催されると聞きました。ですから今日のところはどうか、静かにお帰り下さい。そして後日また、改めてお会いしましょう」

言い終えたバーナビーがニッコリと笑い、深々とお辞儀をする。
すると、パチパチとどこからともなく拍手が起こり始めた。
間もなくサイレンの音が近づいてきて、虎徹を横抱きに抱え上げたバーナビーは慌ただしく救急車へと乗り込む。
二人を乗せた車は再びサイレンを鳴らしながら、街中を走り始めた。




つづく


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