長編3

□幸せな恋の結末(R)
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「作業は進んでいますか?」
「っだ!?」

突然背後から掛けられた声に、虎徹の体が飛び上がった。
文字を打ち込むのが遅い虎徹はいったん入力を始めると、キーボードに全神経が集中してしまう。
そのため、周りが見えなくなってしまうこともしばしばで、今も極度に集中し過ぎてバーナビーが戻って来たことに気づかなかったのだ。

「おどかすなよ」
「すいません。もしかして、作業中断させちゃいました?」
「いや、ちょうどキリのいいとこまで仕上げたから大丈夫だ」
「ならよかった」

イスを引き、振り返った虎徹に笑いかけたバーナビーは右手に持っていた湯気の立つ紙コップを黙って差し出した。
恐らく自販機で買ってきたものなのだろう。
中からはコーヒーのいい香りがしている。

「よかったら、どうぞ。ホットコーヒーです」
「気が利くなあ。サンキュー」
「一応、砂糖とミルクは入れましたけど」
「頭使い過ぎて糖分補給したかったから、その方が助かる」

言いながら、右手を伸ばしてコーヒーを受け取った虎徹は嬉しそうに目尻を下げた。

「ありがとな」

一口啜った虎徹が再度礼を言えば、バーナビーは静かに笑って席に着いた。

「で、ロイズさん、何だって?」

カタカタとキーボードを打つ手を再開させながら、虎徹が尋ねる。
出社してきたバーナビーがロイズに呼び出され、オフィスを後にしてから小一時間。
虎徹は呼ばれなかったことから、バーナビー単独の仕事でも入ったのだろうと思っていた。
そもそもアポロンメディア社が虎徹を雇ったのもバーナビーの引き立て役にするためという理由だったし、扱いが違うのは仕方のないことだと頭では理解している。
しているのだが、バディヒーローとしてコンビを組んでいる相棒としてはやはりちょっと面白くない。
ヒーローとしてだって、まだまだバーナビーには負けたくないというベテランとしての意地もある。
バーナビーに好意を抱いてはいるが、こればっかりは恋心とはまた別の問題だ。

「さっきの呼び出しですか?」
「…うん、そう」
「それなら今日の午後に急きょ雑誌の取材が入ったらしくて、その打ち合わせを少し」
「雑誌の取材?」
「ええ。ロイズさんから聞いてませんか?」
「…聞いてねえ」

不機嫌な声で虎徹が答えれば、おかしいなあ、とバーナビーは首を傾げた。

「確か、コンビ揃っての取材だと言ってましたが」
「え?俺も?」
「ええ、確か…」

やった!と心の中でガッツポーズをしてから、虎徹はニヤけかけた口元を慌てて引き締めた。
普段からヒーローの本分は現場での活動だと公言している自分が雑誌の取材で浮かれているなんてバーナビーに知れたら大変だ。

「ま、どうせお前がメインなんだろーけどよ」

あまり興味ありません、といった体を装いながら、虎徹は作業を続ける。

「そんなことありませんよ。多分、早くから知らせるとあなたが緊張するとでも思ったんじゃないですか?」
「取材なんて、こちとら慣れっこだーつーの」
「だといいんですけど」

いつもの軽口を交わし合う二人のもとに、ロイズからの呼び出しがかかったのはそのすぐ後のことだった。




つづく
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