長編

□笑ってたいんだ 5
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「シュテルンメダイユ地区の銀行で、爆弾を所持した複数の男達による立てこもり事件発生!ただちに現場へ向かってちょうだい!」

PDAから聞こえてくる高視聴率への期待を滲ませたアニエスの弾んだ声に思わず、二人は顔を見合わせ苦笑した。

「俺達がどれだけ悩み苦しんだところで、犯罪は待ってくれないってこった」
「…ヒーローは泣き言を言わない、あなたの言葉でしたよね」
「あー、そんなこと言ったっけな?」

バーナビーに打ち明けたことでわずかでも心が軽くなったのだろう。
いつものヘラリとした顔で笑うと、虎徹はソファーから腰を浮かした。

「さあ、お仕事に出かけるとするか」
「虎徹さん!」
「ん?」
「事件解決したら、僕があなたの泣き言を聞いてあげますよ。鏑木・T・虎徹としてのね」

一瞬、呆けたような表情を浮かべた虎徹が少し寂しげに口元を歪ませ、ポンと肩を叩いた。

(ほんとにもう、俺は必要ないかもしれないな。バニ一は一人でもやっていける…)

「そういう口説き文句はお前のファンの子にでも言ってやれ」
「嫌ですよ。面倒くさい。僕の悩み相談はあなた専用です」
「……」
「どうかしました?」
「あ、い、いいから行くぞ!」

赤い顔を隠すように帽子を深く被り直した虎徹の背中を追いながら、バーナビーは込み上げてくる笑いをかみ殺した。

(あなたの考えてることくらい分かってますよ、おじさん)

手放すつもりなど毛頭ないのだと態度で示す。
もう、あの喪失感は味わいたくないのだとバーナビーは握る拳に力を込めた。





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