長編

□しらじらと明けていく夜
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「おじさん?」
「んあ?」

物思いに耽っていた虎徹は不意に最近聞き慣れた名で呼ばれ、慌てて顔を上げた。

「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。傷つくなあ」

(どこが…)

本音は口に出さずに引きつった笑みを浮かべる。
どうやら感情がそのまま、面に出てしまっていたようだ。

「パーティー楽しんでますか?」
「んなの、見りゃ分かんだろ。てかよー、そろそろ俺はお役御免でもいいんじゃねえか?」
「これも大事なビジネスですよ、おじさん」
「…そういうのはバニーちゃんに任せるよ」

軽い言葉の応酬に、ため息を落としたバーナビーが目を細めた。

「誤解しないで下さい。僕はワイルドタイガーとしてのあなたは好きじゃありませんが、鏑木・T・虎徹としてのあなたには興味がある」
「はあ?」
「まあ、今は僕の足を引っ張らないことをお願いしたいですがね」
「おまっ、」
「向こうで呼ばれてるようなので、失礼します」

軽く右手を上げて立ち去る後ろ姿に、「そういうのが生意気なんだよ!」と悪態をつく虎徹だったがふとバーナビーの言葉に引っかかりを覚えて先ほどの彼の言葉を反芻する。

『鏑木・T・虎徹に興味がある』

確かに彼はそう言った。

(それはいったいどういう意味なんだ?)

半分酔いの回った頭で考えるも答えは出そうになく、虎徹は小さく肩を竦めた。
もう、そろそろパーティーも潮時のようだ。
こっそり抜け出そうと会場入り口へ向かって歩き始めた虎徹は

「久しぶりだね、ワイルドタイガー」

と、背後から呼び止められ足を止めた。
聞き覚えのある声音にゆっくりと振り返る。

「あなたは…」

グレーのスーツを着た恰幅のよい中年男が虎徹を見て、笑っている。
その口元に浮かぶ冷たい笑みを見た途端、虎徹の全身は凍り付いたように動けなくなった。

「再会できてうれしいよ」
「……」

そんな虎徹の様子などお構いなしに、男は静かに右手を差し出す。
虎徹もまた、震える手で 握り返すとギュッと唇を噛み締めた。




続く
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