長編
□しらじらと明けていく夜5
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「バニー…」
「ようやくお帰りですか?」
「お前、なんでここに?」
スタスタと近づいてきたバーナビーが呆れたように肩を竦める。
「後でかけ直す、って電話を切ってからいつまで僕を待たせる気ですか?」
そう言われて、虎徹はバーナビーとのやり取りを思い出し、失敗したなと内心で舌打ちをした。
「…そうだったな。悪かった。で、何の用だったんだ?」
事務的に切り返されて、バーナビーは普段の虎徹らしからぬ様子に違和感を覚える。
「明日の仕事のことなんですけど、昼に直接、取材先に行くことになりました」
「そうか」
「時間に遅れないようにと、ロイズさんからの伝言です」
「分かった。わざわざ、ありがとな」
バーナビーと視線を合わせないまま、どこかぎこちない足取りで虎徹がすぐ側を通り過ぎようとする。
すれ違いざま、彼の体からいつも彼が身につけている香水とは明らかに違うボディソープの匂いが漂ってきた。
(そう言えば、電話口で男は悪酔いしたと言ってなかったか?)
それなのに、虎徹からはアルコール臭の類は一切嗅ぎ取れない。
何かがおかしい。
思わず振り返ったバーナビーは虎徹の項に赤い鬱血跡を見つけて、咄嗟に彼の腕を掴んで引き止めた。
「ってぇ!何すんだよ!」
「ちょっと確かめたいことがあるんですけど、中に入ってもいいですか?」
虎徹がギクリと体を強ばらせるのが掴んだ腕越しに伝わってきた。
「今日は悪いけど、帰ってくれ」
ようやく絞り出した声はかすかに震えてさえいて。
バーナビーは己の想像が確信だったのだと気づき、腹の底から怒りがこみ上げてくるのを感じていた。
「あなたは枕営業するんですか?」
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