長編
□しらじらと明けていく夜8(R)
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「ああ、分かった。すぐに戻る」
やがて、虎徹の中で絶頂を迎えたマートンは会社の急用とやらで呼び出され、慌ただしく部屋を出て行った。
残された虎徹もまた、後処理もそこそこにホテルを出る。
いったいいつまで、こんなことを続ければいいのだろうか…。
疲弊した体は徐々に虎徹の心をも、蝕みつつあることに彼はまだ気づいていない。
不意にPDAの呼び出し音が響いて、慌てて虎徹は目元を隠すアイパッチを装着する。
コレクトコールは相棒のバーナビーからだった。
「どうした?出動要請か?」
「ええ。今どこです?場所が分かればトランスポーターで向かいますが」
わずかな間を置いて、虎徹は今自分が出てきたホテルの名を告げた。
全てを知るバーナビーに、今さら隠し立てをする必要もない。
「…大丈夫なんですか?」
らしくない、気遣わしげな言葉に虎徹の口から自嘲の笑みが漏れる。
「仕事は仕事だ」
いつか虎徹がバーナビーに言ったセリフで素っ気なく返すと、彼は黙り込んだ。
「お前の足を引っ張るような真似はしないから、安心しろ」
「…当たり前です」
平静を装いながらもバーナビーの心は揺れていた。
(この人は僕が自分の足を引っ張るんじゃないかと、それだけを気にしていると思ってるのか…)
そんな風に仕向けたのは己自身だというのに、バーナビーの心はなぜか痛みを覚えるのだった。
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