長編

□しらじらと明けていく夜11
2ページ/3ページ



「よくこんな男がのうのうと世間にのさばっているもんだな」
「それと、そこには書いてませんけど、彼にはもう一つ、公にしていない性癖があるようです」

何となく、その先を聞きたくないと本能が告げる。

「どうやら彼は同性にしか欲情しないタイプらしく、気に入った相手を見つけると手段を選ばずに手に入れ、己の性的欲求を満たしているとか。今まで、何人もの人間が彼の玩具にされたと聞きました」
「…!」

(やはり、おじさんとあの男はそういう関係だったんだ)

薄々気付いていたとは言え、事実として突き付けられると改めてショックだった。

「大丈夫ですか?」
「…気にせず、続けて下さい」

顔色を変えたバーナビーを伺うように、ユーリが話を続ける。

「調べていて一つ気になることがあったのですが…」
「何です?」
「ワイルドタイガーとの繋がりです」

ユーリの口から出た名前にドキッとして、バーナビーの口調がきつくなる。

「どういう、ことです?」
「ワイルドタイガーが起こした器物破損の賠償請求が、彼の手で全てもみ消されている」
「…」
「もしかしたら、彼もその被害に、」
「憶測で物を言うのは止めて下さい!」

声を荒げたバーナビーにユーリは目を細める。

「…これは失礼」
「いえ、僕の方こそ、すいません」

気持ちを落ち着けるように深呼吸すると、バーナビーは伏せていた目を上げた。

「一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「これらの罪状の証拠を突きつけて、この男の罪を暴くことは出来ますか?」
「私は裁判官です。警察の人間ではありません」
「では、僕がこの資料をしかるべきところに持ち込んで、」
「バーナビーさん」

バーナビーの言葉を遮るようにユーリが彼の名を呼ぶ。

「この男に法的な裁きを受けさせようと考えているなら、それは無駄なことです。こういう輩はどうすれば罪に問われないか、その方面には熟知している」
「だけど、それじゃ…」
「それに万が一、罪に問われて逮捕されるようなことになれば、今まで被害に遭った人間も辛い屈辱の過去を晒されることになる」
「ッ!」
「恐らく、ワイルドタイガーも例外ではないでしょう。ましてや彼はヒーローです。きっと世間は面白おかしくあること無いこと書き立てるでしょうね」
「…僕にはどうすることもできないのか」

喘ぐように呟いたバーナビーはがっくりと肩を落とした。







次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ