捧げものと企画文

□2012 バレンタインデー企画
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「っだあッ!なんでお前ばっかなんだよ!」

俯いてわなわなと肩を震わせていた虎徹がいきなりビシッと、バーナビーを指差した。

「はあ!?」

これにはさすがのバーナビーも呆れたようで、端正な眉を歪めて虎徹を見返す。

「変な言いがかりは止めて下さい」

思いがけず冷たい声が出て自身も驚いたが、こうなると互いに後には引けなくなった。

「言いがかりって何だよ」

対する虎徹の声も自然と低くなる。

「そのまんまの意味ですよ。言葉も通じなくなったんですか?おじさんは」
「んだと!」
「まーまー、二人とも止さないか、子供の前で」

割って入ったロイズにたしなめるように言われて、二人は黙り込んだ。
そんな彼らを楓が心配そうに見守る。
彼女の視線にいち早く気づいたバーナビーが言葉を発するよりも先に、虎徹が口を開いた。

「…トレーニングに行って来る」
「ちょっと、虎徹さん!」
「バニーちゃんもご自由にどうぞ!」

拗ねた中年オヤジほど扱いにくいものはないらしい。
カチンときたバーナビーがすかさず返す。

「トレーニングとか言って、どうせサボるつもりなんでしょ」
「ちげーよ!」

険のある彼の物言いに虎徹も頭に来たらしく、オフィスの入り口で振り返るなりこう叫んだ。

「絶交だ!」
「「「はあ!?」」」

三者三様の響きで声が重なる。

「もうお前とは口聞かねー!勝手にしろ!」

そう言うと、呆れた顔のギャラリーに見送られ、足音荒く虎徹は部屋を出ていった。

「あの人、いったいいくつなんですか…」
「ご、ごめんなさい。お父さんがあの、その…」
「楓ちゃんが謝ることじゃないよ」

泣きそうな顔でバーナビーを見上げる楓にしゃがみ込みゆっくり視線を合わせると、彼は苦笑した。

「ほら、ケンカするほど仲がいいって言うだろ?だから大丈夫」
「…ほんとに?」
「僕の言うことが信じられないかい?」
「ううん」

首を横に振る少女の肩をポンポンと軽く叩いて、バーナビーはロイズの方を見た。

「ロイズさん、楓ちゃんを送ってきてから僕もトレーニングに行っていいですか?」
「しょうがない。バーナビーくん、ちゃんと送ってあげてね」
「はい、すいません」



その後、楓をオリエンタルタウンの自宅まで送り届けたバーナビーがトレーニングルームに立ち寄るも、そこに虎徹の姿を見つけることは出来なかった。
仕方なく、苛立ちを抱えたまま自宅へと戻る。
時刻はとうに退社時間を過ぎており、いったいどこで油を売っているのかと考えながら玄関のドアを開けると中からテレビの音が聞こえてきた。

(なんだ、帰ってたのか…)

内心、ホッとしている自分が情けなくて、彼に気づかれないようため息を漏らす。

「あんな啖呵を切ったくせに帰ってきてたんですね」
「…るせー!今、俺のアパート改装工事中で行くとこねーんだから仕方ないだろーが」
「はいはい」
「…くそっ」

行く宛くらいいくらでもあるでしょうに、とか口を聞かないんじゃなかったんですか?という言葉が喉元まで出掛かったが、それらを全て飲み込んでバーナビーはキッチンへと向かった。
これ以上、無駄に彼の機嫌を損ねる必要はあるまい。

「虎徹さん、夕飯はどうします?」
「…楓のやつ、ちゃんと帰ったのか?」
「え?」
「お前が送ってくれたんだってな、その…ありがとな」

すっかりバーナビーの部屋に馴染んだ年上の男は柄にもなく、照れたようにそっぽを向いている。

「心配だったんなら、素直にそう言えばいいのに。あーあ、楓ちゃんがうらやましいな…」
「ばーか、娘にヤキモチ焼いてどうすんだよ」
「あなたこそ、娘さんの前で拗ねたりして大人気ない」
「う…」

言われてぐうの音も出ない虎徹を見ながら、バーナビーは優しく笑いかけた。

「まあ、おかげで僕はあなたの生まれ育った街を見ることができたし、満足ですけどね」

「はい、これ」とリビングに戻ってきたバーナビーから手渡された紙袋を見て、虎徹は目を見開いた。

「これって…」
「チョコです。楓ちゃんから預かりました」
「って、え?あいつ、手作りチョコはお前にって」
「あの年頃の娘さんが公衆の面前でお父さんにって、チョコを渡せるわけないでしょう?」

言われてみればその通りだと、虎徹も納得する。
娘によく、女の子の気持ちが分かってないと叱られる理由が分かる気がした。

「ごめんなあ、バニー」

まなじりを下げて、虎徹が紙袋を覗き込む。
綺麗にラッピングされた包みの中には愛する娘からの愛情たっぷりのチョコレートが入っている。
それは虎徹が本日、他の誰のものよりも待ち望んでいたチョコだ。

「まったく、あなたって人は。ごめんで済んだらヒーローはいりませんよ」

バーナビーがため息混じりに呟いたが、既にチョコで頭がいっぱいの虎徹には届いていない。

「さっそく楓に電話、と」

おもむろに携帯を取り出し、実家の番号を呼び出そうとしたところでバーナビーの右手がそれを遮った。

「何すんだよ、邪魔すんなって」
「お礼の電話はいらないそうですよ」
「へっ?」
「それと『お父さんをよろしくお願いしますね、バーナビー』って楓ちゃんから頼まれました」
「はあ!?」
「ああ、ご家族の皆さんにも虎徹さんのことは僕に任せて下さい、って挨拶しちゃいましたけど」
「……」
「よかったですよね?」

人の良い笑みを浮かべたままとんでもないことを口走る相棒を見つめて、虎徹はしばし呆然と凍りついた。

「おまっ、」
「さて、虎徹さん。夕飯を済ませたら…二人でたーっぷり楽しみましょうね」

ファンにとって天使の微笑みは虎徹にとっては悪魔の微笑み。
彼らにとっての長くて甘いバレンタインデーの夜は今、始まりを告げたばかりだった。








※この後の濃厚なエロは皆様の脳内でよろしくお願いしますf^_^;

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