NOVELS

□告白!
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「好きです」


ジェイク事件が幕を閉じ、街が落ち着きを取り戻してしばらくした頃、僕は虎徹さんに気持ちを打ち明けた。
場所は会社のロッカールーム。特殊能力を持った銀行強盗を2人で捕まえて、いつも通り家路につこうと、私服に着替えていた時だった。

「……あ」

彼はぽかんとした表情を浮かべて、突然の告白にあわあわと慌てだした。
まあ、唐突に切り出した僕も悪い。直前まで夕飯をどうするかの話をしていたんだし。
でも僕にとっては、ずっと言いたかった事だったから。

「……やっぱり洋食の方がいいか?」
「そうじゃなくて」
「あ、おじさんに作って欲しいとか!」
「それもいいかもしれませんが」
「じゃあチャーハンな!こてっチャー…」
「虎徹さん」

バレてますよ。わざとはぐらかしてることくらい。

虎徹さんもさすがに僕の目を見て、誤魔化すことはできないと察したらしく、あーとかうーとか唸って百面相をした挙げ句、帽子で顔を隠して俯いてしまった。
微かに赤くなっているようなのは、僕の思い過ごしだろうか。

「もう一度言います。僕は虎徹さんが」
「ダメだ」


……やっぱり。
そう簡単にOKが貰えるとは、思っていない。だって

「……すまない」
「……奥さんと娘さんのため、ですよね」

そう、この人には愛すべき家族がいるから。
でも僕は、虎徹さんの、そういう家族を大切にする所も含めて、好きになったから。だから、そこは構わない。

「……御家族のことは、僕も重々承知しています。でも」
「そうじゃない」


―――え?


「あいつらの事だけじゃ……ない」

虎徹さんは下を向いたまま。


「……じゃあどうしてですか」
「……」
「僕の事、嫌いですか」
「違う」
「二人とも男だからですか」
「それでもない」
「いや、そうでしょう」
「ちが」
「じゃあどうして!!!」

部屋の中に、僕が殴ったロッカーの鈍い音が響き渡る。
それでも虎徹さんは顔を上げない。

「……お前さんは変わった」
「、ええ、虎徹さんのおかげです」

そう言うと、彼は少し悲しそうな顔をした。

「……そうだな、俺がきっかけかもしれない」
「……?」

何が言いたいんだろう。

「……お前はずっと独りだった。独りで生きてきた。誰かに頼ることもなく」

そうだ。僕は一人で生きてきた。復讐のためには、それが一番だと思っていた。
でも、今は違う。それは間違いだったと知った。そしてそれを教えてくれたのは、誰でもないあなただった。
――そこまで考えたとき、彼の言いたいことが見えてきた。

「お前の世界が広がったとき、目の前にいたのが俺だったから、だから」
「すり込み、って事ですか」

虎徹さんはまたさらに深く帽子をかぶり直す。

「……そうだ」
「違います」
「違くない」
「違う!!!」

虎徹さんは帽子のツバの下から、感情の読めない目でこちらを見た。

「バニー」
「僕があなたを好きなのは……そんな理由じゃ……」
「ない、とは言い切れないだろ?」
「そんな理由じゃありません」
「いや、そうだ」
「いいえ、本気であなたが好きなんです」
「そう思い込んでるだけだ」

辛そうな表情。こんな顔をさせたかったわけではないのに。

「お前はもう、独りじゃないんだ。仲間がいて、支えてくれる人がいて、見守ってくれてる人だってたくさんいる。俺以外にも、たくさん」

そんなもの、関係ない。僕は虎徹さんが好きなんだ。

「だからもっと外を見て、お前には生きて欲しい。バーナビーの、バーナビーだけの人生を、俺なんかの為に無駄にしないでくれ」

虎徹さんがいないなら、他の生き方なんて意味ない。


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