ハリー・ポッター短編

□憧れプロポーズじゃないけれど。
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女の子は素敵なプロポーズに憧れるものでしょ?



憧れプロポーズじゃないけれど。




ある日の昼下がり。

柔らかい日差しの中、ホグワーツの柔らかな芝生は一美しく緑色に輝いていた。

そんな芝生の一部を黒く陰らせている木にふたりの男子生徒がもたれ掛っていた。


リーマス・ルーピンは借りて来たばかりの本のページを、また1ページめくる。

その隣ではピーターがこっくりこっくりと船を漕いで、
時折がくんっと大きく揺れては「ふぐっ」と訳の分からない声を漏らしてはまた眠る。

どこへ行ってしまったのか ジェームズとシリウス、そして今年編入してきたアヤメの姿は見えなくなっていた。


リーマスが本からふと視線を上げると、大イカが湖から姿を現して また水中に沈んでいった。

大イカが立てた水飛沫の音と 鳥のさえずりの他は何も聞こえない。

リーマスが再び文字を追い始めると、ピーターはまた「ふぐっ」と言って、今度はこてっとリーマスにもたれ掛った。


「ピーター…僕にはそんな趣味ないんだけどな…」


夢の世界にいる彼には届かないことを知っていたがリーマスは呟いて苦笑いした。

(もちろんアヤメなら大歓迎なんだけど)

ピーターの寝顔をみながらそんなことを考えていると丁度その本人の悲鳴が聞こえてきた。


「ぃやぁぁあああああっ!!!助けて!リーマス!助けて助けて!」


何事かと目を見開くと とてとて(最も本人にしてみたら全速力なのだが…)アヤメが駆けてくる。

驚いてリーマスは「どうしたんだい?」と訊ねようとしたが口を開くその前にその必要はなくなった。


―――― ドカーン!!!!


アヤメの背後で爆発が起こったのだ…

ピーターはさすがに目を覚まして「なに!?なにがあったの?」と慌てたが、リーマスはいつもの微笑みを崩すことなく「あぁ…」と冷静に頷いただけだった。


「リーマス!リーマス、助けて!」


駆け寄って息も絶え絶えにアヤメは助けを求めたが、すぐにまた次の爆弾が爆発する音を聞いて、また走って行った。


「あ、ああ…大変そうだね。お気の毒に。」


リーマスは爽やかに笑顔で手を振った。

アヤメは去り際にそれを見て恨めしそうにしたが、リーマスの笑顔が崩れることはなかった。


「なに?なんで爆発が起こってるの!?」


未だ状況が把握できていないピーター。


「どうせシリウスと、それにジェームズが乗っかてるだけでしょ。」


リーマスがそれだけ言って肩をすくめる。それだけだったが ピーターは「またか…」と苦笑いして湖の方に逃げて行ったアヤメを見た。

ピーターが納得するのとほぼ同時に、リーマスの言葉通りシリウスとジェームズが姿を現して爆弾を投げつけながら目の前を風のように通り過ぎて行った。

逃げ回る彼女と、それを追うふたりの親友を眺めてピーターはぼそっと言った。


「でもさ、リーマスは良いの?」

「なんのこと?」


さらりとリーマスは白を切って読み切ってもいないページをめくる。


「ほんとは助けたかったんじゃない?アヤメのこと。」

「なんで?」


それでも白を切り通すリーマスに、「はぁ…」とため息を吐いてピーターは核心に触れてきた。


「リーマスアヤメのこと好きでしょ?いくら僕だってそれ位分かるよ。」


ピーターがじっとリーマスを見据えると、リーマスは観念したようにため息を吐く。


「まぁね。でも仕方ないよ、アヤメが彼を選んだんだからね…。」


リーマスとピーターは、今度は両手に爆弾を構えたシリウスの姿を眺めた。


「それより、ピーターこそ良いの?」

「え?」

「もちろんアヤメのことだよ。」


リーマスは仕返しとばかりにくすりと笑う。


「まぁ、僕はアヤメの編入当日から諦めてたようなもんだから…」


ピーターは情けなさそうに笑って続けた。


「でもさ、シリウスだって自分の彼女にあんなことしなくても良いのに…」

「仕方ないさ。好きな子には意地悪したくなるって言うものだよ。」


「シリウスらしいや。」


そうしてふたりが笑い合っていると、ズレた眼鏡を掛け直してジェームズが隣にドサリと倒れ込むように座った。


「僕はもう限界さ…」


体力のことなのか、ふたりと同じようにアヤメに惚れていた故なのかは定かではなかったが、ジェームズは戦線離脱した。
 
 
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