ハリー・ポッター短編

□堕ちる墜ちるオちる
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深く

暗く

甘く



堕ちる墜ちるオちる



天使は眩い光線に目を細めた。

その眼前が 世界が 翠に染まってゆく、闇に支配されてゆく。

純白の翼が 心音が 黒く塗りつぶされてゆく、砕けてゆく。



「ククッ…」

―――…でも



「近付いている…俺様が世界を手に入れるその日が…」

―――…貴女の嬉しそうなその横顔を見られるならわたしは



「アヤメ」

―――…私が翼を揺らして微笑みを返せば 貴方は、未来の帝王は悦に侵され、溺れる。



「アヤメ 次だ」

「えぇ…ヴォルデモート卿…。次は…?」



「ゴドリックの谷だ」

―――…わたしを試しているのね?



「どうした?アヤメ」

「あら、貴方が私を勘繰るなんて…おかしなこともあるのね?」



血潮を浴びた 黒檀のローブを翻し、棚引かせて

―――…学生時代の貴方はよくそうやって照れ隠ししてた。



―――…今や、貴方の影の在り処は変遷を迎えてしまったけれど。

―――…そこに古の学び舎は無く、ただ、転げるばかりの がらんどうになった かつての肉塊。



「行きましょう?ゴドリック谷」

―――…それでも、わたしは何処にも行かないから。



「早くしないと。間抜けなネズミが怖気づいて逃がしてしまうかも。」

「ああ…」



「貴方らしくないわ。未来の帝王…ヴォルデモート卿」

―――…貴方がどんなに変わっても 私は変わらず貴方の傍らに。

―――…ほら。囁いて?



「いずれ、君に全てを贈ろう…俺様の愛しい“堕天使”…」

「ふふっ…嬉しいわ。ヴォルデモート卿、いいえ…」



「愛するリドル」



―――…力に溺れる貴方も素敵だけど わたしはその表情が見たいのよ。

―――…わたしだけに見せて 無垢で 臆病な 本当の貴方。


―――…堕ちた天使にのみ 紡ぐことの許された真実の呼び名。




さあ、歩みを進めよう。

ゴドリックの谷へ。


その角のように枝分かれた 数奇な運命を 堕落の天使はまだ知らない。
 



 
END…

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