ハリー・ポッター短編

□愛執
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君は僕を怒らせたいのか?



愛執



「アヤメ」


薄暗い教室に少年の声。

どこか思い詰めたそれに、女は 首を傾げ、少年の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「僕は君を、アヤメを愛してる…」

「私もだよ…?」


恋人の言葉は 僕の 苛立ちを増幅させ、加速させていく。


「フンッ…白々しいな…」


―――…吐き捨てるような口調。


「そんなこと……っ…!?」


否定しようと口を開いたアヤメを、僕は壁まで追いやる。

怯えたように後ずさる姿が僕の神経を逆なでる。無性に腹が立つ。


「急にどうしたの…?ドラコ…」

「どうしたもなにもないだろ!?」

「っ……!?」

僕は声を荒げる。

空き教室の壁に叩き付けられた怒号に アヤメは肩を震わせる。


―――…残響さえ消散とすると それきり寂として、俯くふたりだけが取り残された。


―――…刹那の沈黙が 苦く 重く 永く永く 圧し掛かる。


「僕には怯えるんだな。さっきはあんなに楽しそうに笑っていたのに」

「なんのこと…?」

愛しくて堪らないはずのその顔が 今は憎くて憎くて 狂ってしまいそうだ。

その横顔に両手をついて 逃げ場をなくしてやると、アヤメは固く瞳を閉ざした。


「わからないのか?」

「わからないから、聞いてるの…っ」


―――…怖々と開いた 漆黒の瞳が濡れている。

―――…けれども 少年の胸に盛り、宿る、嫉妬の炎を絶やすには不十分で…


「ポッターと楽しそうに話していた」

「でもそれは…」

「フンッ…否定はしないんだな。」

「だって…ハリーはただの友達だもん…」

ポッターが君に好意を寄せていることさえ気付いてないのか…?

どこまで鈍感なんだ…。

困ったように眉をひそめるアヤメの仕草も、その鈍さも いじらしくて

思わず緩みそうになる口端を僕は慌てて引き締める。


「それに…話題が話題だったし…」

「どんな?」

「え?」

「どんな話題だったのかと聞いてるんだ。」


僕が問いただすとアヤメはふいと顔を背けて、耳まで赤くした。

僕の両腕の狭間で恥ずかしそうにしている君も可愛らしくて 全てを忘れて抱きしめたくなる。

でも…、そんな姿を 君は他の男にも晒すのか………?


「それは…言えないよ…」

「僕に言えないような話でもしていたのか?」

「………」

「答えろアヤメ」


頑なに口を割ろうとしないアヤメに、燻りかけていたそれが 再び頭をもたげる。

ポッターには話せて、僕には話せない。

ポッターには渡さない。


「…君が誰のものか…分からせてやるまでさ…」


耳元に唇を寄せて 低い声で囁き…


「え……」


アヤメの白い首筋を 噛み付くように吸い上げる。


「―――…っ…!!!」


―――…チクリと刺すような微かな痛みに目を細める。

―――…斑模様の痕跡が浮く ドラコは満足げに鬱血したそこを舐めあげた。
 
 
 
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