ハリー・ポッター短編

□For whom...For you...
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ねぇ、これって貴女を騙してることになるかしら?

眠る貴女に内緒のキス…

わたしの努力に免じて 少しくらい許してくれるわよね?なーんて。



For whom...For you



「うぅー…わかんなーい…」


アヤメは思い切り羊皮紙に突っ伏した。


「どの問題?ああ、それなら…ここをこうするのよ」


アヤメが大奮闘した末屈した問題を、リリーはさらさらと解いてみせる。

顔だけをあげてリリーの羽ペンの先を見つめていたその顔は、やがて納得の色へと変わった。

「なるほどっ!」


目をキラキラと輝かせて アヤメは羽ペンを持ち直した。

そして 書き終えた文字列を リリーに見えるように動かすと 首を傾けて尋ねた。


「こう?」


一通り目を通し終えるとリリーはアヤメに微笑みかける。


「うん、正解!すごいじゃない アヤメ」

「やった…!リリーありがとう///」


ほんの少し頬を赤らめて 嬉しそうに笑うアヤメ。


(この子ったら…本当に可愛らしいんだからっ////)


リリーはにやけそうになる口元を緊張させた。


(でも…)

「アヤメ、ちょっと」

「?」


疑問符を浮かべた顔を リリーは指で擦った。


「もうっ…インクがついちゃってるわ。」

「え…///」


慌てて リリーを真似るように擦ると 指先が黒ずんだ。


「ほんとにしょうがないんだから…」


リリーが鞄から真っ白いハンカチを取り出すと、アヤメは慌ててリリーを制した。


「だめだよ!ハンカチ汚れちゃうっ」


焦るアヤメを余所に リリーは冷静なまま。


「いいのよ。ほら大人しくして」

「っふむぅ!?」


長い指でアヤメの両頬を摘む。


「アヤメったら変な顔〜」


くすくすと可笑しそうに笑われアヤメは反抗する。

が、リリーは構わずアヤメの鼻先を拭った。


「ひゃめへよぉ〜」

「はいはい。もう少し〜♪」


あまりに楽しそうな姿に 負けたアヤメは大人しく拭かれることにした。


「おーわりっ」



―――…チュッ



「え…///」


弾けるような音に アヤメは解放されたばかりの頬を押さえた。


「リリーっ!?///」

「アヤメったら可愛い〜♪」


リリーは小柄な身体を抱きしめて ほお擦りした。


「うぅ…恥ずかしいよ、リリー///」

「はいはいっ」


名残惜しげにしながらも リリーは腕の力を弱めた。

涼しい顔のままでいるリリーを見詰めてアヤメは思う。


(きっとイギリスではこれくらい普通なんだよね…)


そう 自身を納得させればさせるほど、大袈裟な反応をしてしまったのではないかと 更なる恥ずかしさに襲われる。

行く宛てのない恥ずかしさと共に ちょこんと座ったままのアヤメをそっと撫でて リリーは笑った。


「さ、明日の学年末試験に備えて寝ましょ?」

「…うん///」



教科書も羊皮紙も全てしまい込んで ふたりは“おやすみ”の挨拶を交わす。

ほんの少しの間を空けて、暗闇のなかに リリーの囁き声。


「アヤメ…?」


しかし 呼び掛けた先のベッドは沈黙したまま。


「アヤメ…もう寝てしまったの…?」


リリーは 音を立てないようにそっとアヤメのベッドの縁に歩み寄ると 闇に溶けてしまいそうな黒髪を 普段と変わらぬ優しい手つきで撫でてみた。


「お疲れさま、アヤメ。」


そして黒く汚れたハンカチに目を落とす。

寝息を立てる 愛しい横顔に口づけて リリーは囁く。


「ハンカチは…これで許してあげる。」


悪戯に微笑み、ベッドから手を離す。

そっと小さなランプに火を点して、仕舞ったばかりの勉強道具を取り出した。


「わたしはもう少し頑張るわね?」


―――…だって いつまでも貴女に頼られる存在でありたいの。

―――…そのための努力なら 決して惜しむものですか。
 
 
END...

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