novel

少しずつ知り始める
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藤堂平助
彼は良い意味でも悪い意味でも有名な人、らしいけど・・・

私が知っていることは、彼がサボり魔で、突然キスして、脅して名前で呼ばせる最悪な人間ってことだけ。
認めたくないけど、頭が良い・・・
実力テストで1位取るなんて、未だに信じられない。

でも・・・
私が知っている彼のことはそれ位しか無い。




























放課後、先生に頼まれた用事でたまたま通りかかった剣道道場の前。
女の子が数人、扉から中を覗いていた。
だけどそんな事には気も止めず、千鶴はいつも通り、通り過ぎようとしたその時だ。



『くっそ!また負けた!』

『はい、残念でした。』



激しい竹刀の打ち合いの音。
そして、聞こえてきた生徒の声。



「今の声って、もしかして・・・?」



聞き覚えのある声がして、ふと足を止めた。
まさか、彼がこんな場所に居る筈ないと思いつつも、道場が気になって仕方が無い。

千鶴はついに好奇心を抑えられず、数人いる女の子の隙間からこっそり剣道道場を覗きこめば・・・



「やっぱり平助くんだ。」



道場にはいつも見る制服姿ではない。
胴着を着て竹刀を持った、藤堂平助が居た。

どうして平助くんが、こんな場所に居るんだろう?

そんな疑問を持った瞬間、後ろから聞き覚えのある声がした。




「・・・千鶴ちゃん?」

「あっ!お千ちゃん!」

「どうしたの?こんな場所で?」




お千ちゃんこと、千姫は千鶴の中学生の時からの友人であり親友でもある。



「たまたま先生の用事で通ったの・・・」



千姫にそう答えると、千鶴はすぐに平助の事を思い出し、千姫に質問をした。



「お千ちゃんって、確か剣道部のマネージャーだったよね!?あそこにいる平助くんのことなんだけど。」

「藤堂くん?」

「うん!!
 もしかして、剣道部員なの?」

「えぇ、そうよ。」




やっぱりそうなんだ!!
全然知らなかった。

だってあの平助くんが、剣道部だなんて全然想像つかないもん。




「結構強いのよ、藤堂くん。」

「そうなの・・・?」

「うん、全国大会にだって出てるわよ。」

「全国大会!?」




あの、いつも授業をサボってばっかりの平助くんが、全国大会に出てる!?




「でも沖田先輩や斎藤先輩には、まだまだ勝てないみたいだけどね。」

「・・・?」

「えーと、今藤堂くんと話してるのが沖田先輩よ。
 斎藤先輩は、部長会議だから此処に居ないんだけど。」



千姫のその言葉を聞いて、千鶴は平助の隣に居た人物に目を向けた。

二人は話しているというよりも…
沖田先輩って人が、平助くんをいじっているようにしか見えない。






でも――






「平助くん、なんだか楽しそう。」

「あの二人は、いつもあんな感じよ。」






平助くんに関る様になってから、なんとなく感じていた違和感。

クラスの皆と仲が悪いわけじゃない。
教室に戻れば、普通に喋っている。

だけど、心から笑っている様に感じなかった。

皆から一線を引いている様な・・・
少し冷めている様な、そんな感じがいつもしていた。


でも、今此処にいる平助くんは・・・
教室にいる時と違って無邪気に笑ってる。

こんな風に笑ってる平助くん
初めて見た――


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