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□C
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「あっ…雨?」



朝からずっと晴れていた空が、お昼を過ぎた頃から急に曇り始め…
あっという間に雨が降り始めた。



「確か、傘持って行ってなかったよね…」



朝、家を出た彼の姿を思い出した。
その頃天気は大変良く、まさか雨が降ろうとは思っていなかった為、傘は持って出なかった筈…



「もうそろそろ終わる時間だし…
 持って行ってあげようかな。」



千鶴は大きくなったお腹を、そっと優しく撫でて「一緒に父様を迎えに行こうね…」そう呟いて家を出た。








































「……っ…ど、どうして…?」



迎えが来ていると言われて、外に出た千鶴ではあったが、目の前に居たのは…
もうこの先、会うことが無いと思っていた…







藤堂平助、本人であった。







「………夢?」

「夢なんかじゃねーよ。」

「……本当に、本当に平助くん…?」

「当たり前だろ…
 ずっと、待たせてごめんな。
 やっと千鶴を迎えに来れた。」

「でも…!!
 平助くんは婚姻を結んだって…」







そう噂で聞いた。


だから、もう会うことなんてないと…
だから、せめて夢で逢えるようにって…


何度も願った――…








「あー…あれな……」


平助は少し困った様に言葉を止めた。
しかしすぐに何かを決心したのか、言葉を紡ぎ始めた。









「婚姻を結んだのは、俺じゃねーんだよ。」

「――…えっ?」

「……俺、勘当されてよ。
 親父にさ、好きな女一人を幸せに出来ない奴を跡取りにするつもりはないって…
 しかもご丁寧に手切れ金まで、用意して…」

「……そ、そんな…」

「ったく俺、本当に恰好悪ぃんだけどさ…
 でも、それでも俺は…
 千鶴と一緒に生きていきたい。」







平助はそう言うと…
千鶴にそっと手を差し出した。








「俺にはもう家も地位も無いけど…」

「……平助くん…」

「千鶴を幸せにしたいと思ってる。
 その気持ちはずっと昔から変わってねぇ。
 ………だから、これからも…」


























――…俺の傍に居てくれねーか?


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