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□D
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無事に子供が生まれ、千鶴の体調も落ち着き…穏やかな日々が流れていた。

こんな穏やかな日がずっと続けばいいのに…
そう思っていた矢先のこと――…






「ねぇ、平助くん…
 一度街に戻ってみない?」

「――…っ!!」





千鶴の言う街は…
俺達が以前住んでいた場所。

俺の勘当された家がある場所でもあり…
千鶴が居た遊郭がある場所でもある。





「……突然どうしたんだよ?」

「あのね…」





千鶴は腕の中にいる幼子を見た。
5カ月前に生まれた、二人が愛し合っている証とも言える子供が穏やかな表情で眠っている。



「平助くんのお父様に、この子を会わせてあげたいの…」

「おっ…親父に!?」

「うん…」




千鶴は眠っている子供を起こさないようにそっと立ち上がると、箪笥から1通の文を取り出してきた。


その手紙の差出人は…
なんと、平助の父親からだったのだ。




「……これ、どういうこと?」

「実はね…」




この村での暮らしが落ち着いた頃…
千鶴は駄目元で、平助の父親に文を送ったのだ。

すると、平助の父親から返事が送られてくるようになり、それ以来二人は文のやり取りを行っていた。

そして、千鶴が取りだした文にはこう書かれていた。







落ち着いたら一度顔を出しなさい――…







「お父様もお母様も…
 平助くんのことすごく心配してたよ。」

「…っ………」



平助は父親に勘当された…


しかし…
それは平助の父親の優しさでもあった。


元々、藤堂の跡取りが花魁を嫁として迎えることは周囲からは猛反対されていた。
平助の両親は別であったが、周りは違っていたのだ。

だから、平助を藤堂家に縛られない様にと
勘当という形で平助を外に出したのだ。


好きな人と幸せになってくれるようにと
願いも込めて――…




「手切れ金って…
 私を身請けする為のお金だったんでしょ?」

















『……何だよ、この金…』

『手切れ金だ。
 荷物をまとめてこの家から出て行け。』

『――…なっ!?どういう事だよ!?』

『たった一人の女を、幸せに出来ぬような奴にこの家は継がせん。』

『まさか…この金…』

『平助…
 彼女を、千鶴さんを幸せにしてやりなさい。』

















「千鶴は何でもお見通しってわけか…」




手切れ金は、二人のことを影からでしか祝ってあげられない父親からの、ささやかなお祝いだったのだ。




「ったく…
 俺に直接言えっての…あのクソ親父…」

「きっと、断られると思ったんだよ。」

「まぁ、勘当された家に行くのはな…」

「……そうだけど…でもっ…」

「行かねーなんて言ってねーだろ。
 もう少し暖かくなったら…
 桜が咲く頃に、土産でも持って行こうぜ?」




平助は少し顔を赤らめながら、千鶴にそう伝えた。




「もちろん、こいつも一緒にな…」

「うん!!」




平助は、千鶴の腕の中で眠っている我が子を愛おしそうに見つめた。





























拝啓、親父


俺は元気にやってるよ。

桜が咲き始めたら
必ず3人でそっちに戻るから

その時は、あんたの孫に会ってくれ。
あんたの手で、抱いてあげてくれ。

そして…

親父に伝えたい言葉がある。
会った時にも言うけど、先に言っておく。

俺と千鶴の幸せを願ってくれて
ありがとう――…



end
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