男と狂気、猟奇と息子

□第1話 再会
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 俺が妻の由利子と離婚して、今日でちょうど七年になる。

 俺はサラリーマン、由利子は医者。仕事が原因ですれ違いも多くなって、七年前の今日。ついに俺と由利子は離婚した。離婚を切り出したのは、由利子からだった。

 離婚した当時、俺と由利子の間には一人息子の弘樹がいた。弘樹をどちらが育てるかに関しては随分揉めたが、最終的に由利子が弘樹を引き取ることになった。


 俺は独り身になり、気楽な独身生活を続けていた。だが……今日。離婚してちょうど七年目の、今日。


 平穏且つ平凡だった俺の日常は、突然狂わされることになった。


 今日の夕方、午後五時すぎだろうか。珍しく勤務時間通り家路につけた俺は、人の行き交うオフィス街を歩いていた。

 そんな時だった。実に数年ぶりに、由利子からメールが届いたのは。

 そのメールの内容は至って単純。

 明日の夜から、弘樹をしばらく預かって欲しい。

 たったそれだけの、短いメールだった。

 どうしてそんな事を言い出したのか、俺には分からなかった。取りあえず俺は、どうして預からなければいけないのかを尋ねた。

 するとしばらくして、数年ぶりに由利子から俺の携帯に電話がかかってきた。

「はい、もしもし」

「あ、あな……いえ、修二さん。お久しぶりですね」

 よそよそしい口調で由利子が話し始めた。

「で、どういう事なんだ? 弘樹を預かって欲しいなんて」

「……仕事の都合で、しばらく家を離れる事になったんです」

 由利子の言葉を聞いて、俺は疑問を抱く。

 確か俺の記憶と計算が正しければ、弘樹は今年で十七歳になる筈だ。わざわざ俺が預かるほど手のかかる年齢ではないと思うが……。


「……でも何でわざわざ俺が弘樹を? 確か今年で弘樹、十七だろ。あいつは男だし、家にいさせたままでもいいんじゃないか?」


 ……まぁ、俺としては7年ぶりに息子と対面出来るわけだから――俺は由利子と離婚して以後、一度も由利子や弘樹には会っていない――、どうせ独り身だし、弘樹を預かること自体に抵抗はなかったのだが。


 電話越しに聞こえていた由利子の声は聞こえない。どうやら無言になったようだ。


「……どうしても、弘樹を引き取ってくれないの……?」


 やがて由利子は、震えた声で俺に尋ねてきた。どうしてこんなに由利子の声は震えているんだろうか。


 ただ、由利子の声音は絶対に弘樹を預かれ、と訴えかけているように感じた。

 よっぽどの事情があるのだろう。由利子を気の毒に思った俺は、彼女の頼みを引き受けることにした。


「……いや、分かった。弘樹を預かるよ」

 由利子に告げると、由利子は安堵に満ちたようなため息を漏らした。


「……良かった。じゃあ弘樹にその事を伝えておくわね。明日の夜頃、あなたの通う会社の最寄り駅に向かうよう弘樹に言っておくわ」

「あぁ、頼む」

 そして俺は、由利子との通話を終えた。七年ぶりに息子と出会える。そう思うと、自然に俺の心は浮き足立っていた。

 最後に電話を終えた時、由利子のよそよそしい口調が消えていたことに気づいたのは、家についた頃だった。




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