男と狂気、猟奇と息子
□第2話 本性
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家に入ってから俺は自分の部屋着を弘樹に貸し、その後二人で夕飯を食べた。
弘樹のリクエストで、夕飯はそうめんだった。
「ごちそうさま! あぁ、美味しかった」
弘樹が手を合わせて挨拶をした。
「お粗末さん。弘樹、いきなりで悪いが、食器を台所に運ぶのを手伝ってくれないか?」
俺が声をかけると、弘樹は快く俺の頼みを引き受けたのか、笑みを浮かべてうなずいた。
そして俺は台所に立ち、食器を洗う準備を始める。弘樹が運んできた食器を受け取り、俺が洗う。そんな単純作業の繰り返しだった。
食器洗いも佳境に入り始めた、その時。
台所の蛇口から流れる水がシンクに落ちる音に混じって、何かが鋭い音をたてて割れたような音がした。
「ん?」
不審に思い、水を止めて振り返る。
すると、台所と直結しているリビングで、弘樹がスリッパ越しに何かを潰しているのが見えた。
「弘樹?」
水に濡れた手を拭いてから弘樹に駆け寄る。
駆けよって気づいた。
弘樹が潰していたのは、俺がリビングに飾っていた写真立てだったことを。
写真立ての中に入っていたのは俺、由利子、幼い弘樹が一緒に笑いあって写っている写真だった。
「ひ、弘樹!? お前何やってんだよ!」
慌てて弘樹に声をかけた。
「……父さん」
ひどく純粋さを秘めた眼差しを、弘樹が向ける。