歯車T

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「そういえば、この機械音は?」

「あぁ、食洗機と、今洗濯機もまわしてるから、その音だと。あれも気になるかな...止めといとほうがいい?」

「いや、大丈夫だよ。集中してたら全く気にならないしね。」

「そう、よかった。文字覚えられそう?」

「なんとか。ルールがわかりやすくて助かったよ。」

「こんな短時間で?すごいね。うちの生徒にも見習わせたいわ。私でも外国語の文字覚えるのもっと時間かかるし...。」

「はは、必死だからね。」

「それだけじゃないと思うけどね。
どの組み合わせがなんの音になるかはOK?」



気を遣ってくれていたかと思えば、今度は挑戦的な視線を向けてくる。
目を奪われた。



まったく。
いい目をするものだ。
煽られる。



「あぁ、そのつもりだ。」

こちらも受けて立てるとニヤリと笑うと

「じゃあチェックしまーす。」

と喜々と文字が書かれたカードを私の目の前に差し出した。
一枚のカードに1文字、表には平仮名、裏には読み方が書かれたカード達を次々と目の前に出してくる。見せられたらその発音を口に出していく。

するとすぐに、「すごい!それだけできたら問題ないね!」と笑顔で合格をもらえた。

少し照れた。
ひとみは褒めて喜ばせ、その気にさせるタイプか。
こんなの慣れていない。


そんな私に気付かないのか、「じゃあ次は」と話を進めていく。

文を書くときの作り方や
気をつけるべき、間違われやすい文字・文法の注意点から
先ほどの音の作り方を使って入力するんだと、電子辞書やPCでの使い方
流れるように説明された。
PCでも翻訳できるサイトというものがあるらしく、使えそうな情報を順を追って片っ端から教えてくれた。

教師をしているというのが納得させられる。
家事にしても教えるにしても、手際がいい。
話もうまく、引き寄せられる。
途中、5分程休憩を挿んだとはいえ、気がつけばもう昼に差し掛かる時間になっていた。




「じゃあご飯作ってくるから、PCでなにか検索して調べててもいいし、復習しててもいいからちょっとまっててね。わからないことが出てきたら随時きいてくれていいからね。


そう言い、15分後にはテーブルの上にはスパゲティとサラダ、スープが並べられていた。

早いだけでなく見た目もいい上、何より味も絶品。






「私の嫁に欲しいくらいだな...」

美味しそうにスパゲティを頬張っているの見ながら無意識のうちにそう呟いていた私は、「またそーゆーことを...」と顔を真っ赤に染め上げたひとみに説教された。

なんでも、私の言うことは気障で人を勘違いさせるとか
本当に大事な人にだけ言うようにしないと、信じてほしい人に信じてもらえなくなるとか
最終的に苦しむことになるかもしれないのはロイだと。





正直、自分で言ったことに自分が一番驚いていた。

時間にしても、会ってまだ1日も経っていない、言葉のまま住む世界の違う彼女に。
こちらに来るまで、生きるか死ぬかの瀬戸際で、夢を追い、夢に反し続けて自分を見失いかけ、混沌としていた私が
もうこんなに心を開いているのかと。

嫁だなどと、そんなことを考えている余裕などないというのに。
ひとみとともに生きていくことすらできないことは火を見るより明らかだというのに。
自分にはやらなければならないこと、帰るべき場所があるというのに。



真っ赤に恥ずかしがって照れ隠しのように怒っていたかと思えば、最後にはやはり私の心配もしてくれている。



そんなひとみに、心が乱される。

ひとみの隣は居心地がよすぎる...
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