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「...ロイ。」

「ん?」

「あの...」

「...」

「ごめんなさい。」



すると突然聞こえてきた謝罪の言葉。
それはいつもの元気な声ではなく、震え、弱弱しく発せられた。

なぜ?



「...どうして君が謝る?」

「だって...」

「だって?」

「だって、傷ついてるでしょ?」



確かに傷ついているのかもしれない...
この気持ちが傷ついているというのならそうなのかもしれないが

なぜそう感じた?
なぜそれでひとみが謝る?



「だから、ごめんなさい。もっと考えれば、ロイが傷つくってわかったことなのに、浅はかで、ロイに笑ってほしいのに、さっきは泣きそうな顔させて、今だって声が震えてる。」

「...何のことだい?」

「あの...髪乾かしてる時の...」



あぁ、合点が行った。

あの時、私の動揺は隠せていなかったのか。
急いで部屋に戻ったが、表情に出てしまっていたのをひとみは見落とさなかったんだろう。
今も、扉一枚隔てているから平静を装うのは声だけでいいのに、それもできないでいるのに気付いてくれている...

それだけ私のことを見ていてくれていることは嬉しいが、
それで彼女に勘違いさせてしまい、こんな気持ちにさせてしまって...

謝らなければならないのは私の方だ。

彼女が『傷つく』ということに敏感だと知っているはずなのに、こんな声を出すほどまで悩ませてしまった。

まるで子どもではないか。



「...言ったじゃないか。ひとみが私を想ってくれているのがわかったと。傷ついてないよ。あれは嬉しかった。」

「あれは?じゃあどれが嬉しくなかったの?どれがあなたをあんな表情にさせちゃったの?」

「...」

「嬉しくないこと、辛いこと、悲しいこと、ちゃんといって?私、この世界でのロイの家族になりたいの。」



急いで弁解しようと、勘違いを解こうとして
その返事に凍りつく。

心が、頭が痛む。
体中が脈を打って悲鳴をあげている。

弱弱しい声のはずなのに、ひとみの声が妙に大きく聞こえる。
まるで耳元で叫ばれているようだ。

心が叫びだす。
体全体から溢れてくるみたいだ。



それ以上は聞きたくない。

やめてくれ。

わかってるから。

君の想いも、自分の立場も

ちゃんとわかってるから。

それ以上はもう聞きたくないんだ。

君の口から、今それを聞くのは耐えられない。

頼むから

頼むから


「ロイの心を落ち着かせることのできる帰れるところになりたいの。居場所になりたいの。」

「やめてくれ!!」


頼むから...

頼むからやめてくれ...



懇願にも似た思いがこぼれ落ちる。

その直後

聞こえてきた、驚き、息をのむ音にハッとする。



「いや、すまない...すまない、違うんだ。君の気持ちは本当に嬉しい。ここにいてもいいんだと思える。十分に心を落ち着かせることができる場所になっているよ。」

「ごめんなさい...」

「謝らないで...謝らなければならないのは私の方だ。大きい声を出して驚かせてしまってすまない。」

「...」

「わからないことだらけで行き詰り続けていて、イライラしてしまってね。それで君にあたってしまうなんて未熟にもほどがある。すまない。」

「...」

「君にあたりたくないんだ。勝手で申し訳ないが、一人にしてもらってもかまわないかい?」

「...大変なのに、力になれないどころか、邪魔までしちゃって、ごめんなさい。
なにかあったらいつでもいってね、ごめんね。」

「すまない。声かけてくれて嬉しかったよ、ありがとう。」
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