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なんだか喉が渇いてきて冷蔵庫を開けてみると、
今度はひんやりとした冷気が流れ出てくるのと同時に


≪ロイへ 

 おつかれさまです

 きが むいたら たべてね

 あんまり むり しないでね≫


というメモと一緒に置かれた
シュークリームとコーヒーを見つけた。

このメモを和真が見たらどうするんだと思いながらも、喜んでいる私がここにいる。



ずっと起きているんだ。

喉も渇いていたし
小腹も空いた気がする。
働かない頭にも丁度いいかもしれない。

数時間前の食欲の無さが嘘みたいだ。







コトッ


「いただきます。」


冷蔵庫からコーヒーとシュークリームをとりだし、リビングでもらうことにした。

窓から景色を見ながら口にするそれらは
驚くほどおいしくて
体中だけでなく心にまで染みわたるようだった。

シュークリームの甘みは、塞ぎこみ、落ちていた心を癒してくれ
コーヒーは重くて働こうとしない頭を冴え渡らしてくれる。

辛い思いをさせてしまったのに
嫌われてもしょうがないのに
こうして変わらず
惜しみなく優しさを与えてくれる彼女に
愛しさと感謝の気持ちが溢れ出す。




あぁ

ひとみが好きだ


どうしようもないぐらい

ひとみが好きだ




もう、あんな声を出させたくない。
悲しませたくない。
傷つけたくない。

笑顔を。
幸せを守りたい。


彼女への想いを伝えることすらできなくとも
彼女が他の男と愛し合おうとも

彼女には、
ひとみには幸せになってほしい。


それで私がいくら辛い思いをしようと
嫉妬に狂いそうになろうと
もうかまわん。

ひとみが笑っていられるなら道化にでも何でもなろう。


大丈夫、なんの問題もない。
答えはいたって簡単なものだったんだ。

ただの私の覚悟の問題。
ただ耐えればいい。
また逃げ出したくなるほど辛くなれば、今のように彼女から得られる優しさを感じればいい。

今さらもう
自分が傷つくことは
怖くはない。



まぁ、あれだな。

まだ顔を合せる心の準備はできていないが...






気持ちを新たに
顔を叩き
気合いを入れる。

敢えて今使っていた食器は洗わず、
皿の下にはひとみへの感謝のメッセージを一言書いたものを敷いておく。

そうすれば和真も気づかんだろう。



カーテンを閉め、
和室に戻り、
ひとみに借りているカバンに借りてきた本たちを詰め込む。

今度は錬成陣を書いた紙とカバンを手に玄関へ向かい、
極力音が出ないように外へ出て、
錬成陣を使って鍵を閉めてから散歩のときに通る川原へ向かった。

少し体を動かせば、もっとスッキリするだろう。
久しぶりに軽く体を動かすか。
ひとみにばれたら怒られそうだが。

怒ってくれるひとみがすぐに頭に浮かんで笑みがこぼれる。

外で読むのも今の時間なら涼しいし、すぐ読み切れるだろう。
心配させないようにさっさと
体動かして
読んで
心の準備をして
家に戻らなければな。
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