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リビングに入り、人の気配がないことに先ず安堵する。
心の準備ができていないから。
ほんと、いつからこんな臆病になってしまったのか...
困ったものだと思いながら、リビングの時計に目を向けると、まだ6時ということに、二度目の安堵の息が漏れる。
まだ6時なら目覚ましもなってないから、目覚ましのせいでロイを起してしまうということもないだろう。
さっき焦って和真起さなくてよかった。
あ!!
だめだ!!
私の人の気配で起しちゃうかもしれない!!
静かに携帯探そう。
台所、時々ギシッって軋む音するときあるし。
忍び足で台所に向かうと、シンクの横にお皿とグラスがあった。
あれ?昨日片づけなかったけ?
なんて疑問も浮かぶけど、取り合えず今洗ってガチャガチャするとロイ起してしまうかもしれないからと洗うのは諦め、シンクに入れて水をはっとくことにした。
まずはグラスを手に取り、軽くすすいで水を張る。
使って間もないのか、グラスの表面は汗をかいていた跡があり、少し冷たい気がした。
あまり汚れてないお皿にも水を張ろうと持ちあげると、
お皿の裏に何か張り付いていたみたいで、
それはもう濡れてしまったシンクの中へヒラヒラと落ちていってしまう。
なんの紙だろうと目を向けて、書かれていたことに目を見開く。
大きくでかでかと書かれていたことは、昨日私がロイにと書き残したこと。
≪ロイへ
おつかれさまです
きが むいたら たべてね
あんまり むり しないでね≫
このメモは、シュークリームとコーヒーと一緒に冷蔵庫に入れておいたもの...
そっか。
ロイ、食べてくれたんだ。
食べてくれたというその事実だけで、何故かすごく嬉しくて、なんだか安心して、視界がかすむ。
そんな自分に驚かされた。
残りのお皿に水を張って、手を拭いてからまたそのメモを手に取ると、
私のメモの下に小さい文字で書かれたメッセージに気付く。
≪しんあいなるひとみ
きみがすきだというだけあるね。
とてもおいしかった。
きみのさしいれとやさしさにいやされたよ。
ひとみにはいつもたすけられている。
おかげでまたがんばれそうだ。
ありがとう。
I believe you from bottom of my heart.
With Love, Roy Mustang≫
慣れない平仮名で書かれた感謝のメッセージ。
歪んだり、『お』なのか『み』なのかわからにくくアンバランスになったりしている文字で紡がれた文字に、
心が救われた気がした。
なんでこんなわかりにくいところに置いておいたのか...
お陰で濡れちゃったじゃない...
せっかくのメッセージも滲んじゃった...
なんて思うも、
わかりにくいところに敢えて置いて隠してくれていたんだろうと、彼の優しさに涙がこぼれた。
なんで英語で書くかなぁ。
私、日本語教えてても英語あんまり得意じゃないのに。
訳は『心から君を信じてる』でいいのかな?
直訳じゃなくて、意訳っていうの?ネイティブの意味するところがわかるようになりたいって今ほど思うことはない...
『With Love』なんて、私も知ってるくらいだから締めくくりにお決まりの言葉なのかもしれないけど、誰にでも使うようなものではないっていうのも知ってるから、
なんだかちょっと照れ臭いというか、嬉しいというか...
少しはこの人の為に何かできてるのかもしれないとか、身近な存在になれてるのかも...なんて思えてしまった。
滲んでふやけたメモの水分を近くにあったキッチンペーパーで叩いてとり、
綺麗なハンカチで挿む。
だってこんなメッセージ、捨てられないもんね。