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カチャ





リビングへ足を踏み入れて、また妙な違和感に襲われる。

その違和感が何なのか観察してみると

静かなユキと、やはり姿の見えないひとみ。
そして少し空いている和室へ通じる襖に気がついた。閉めていったと思っていたが、開けたままにしてしまっていたのか?
どちらにせよ、確実に私の不在には気が付いていているだろうな。

ほのかに鼻に届くいい香りにダイニングへ目をむけると1人前だけ用意された朝食。
食器やそれが置かれている位置からして、あれは私の為に用意されたものだということがわかる。
私のだけか...
ひとみの朝食は?
いつもなら共に食事するというのに。
自分が食べなくても紅茶だけでもとか、なにかしら自分のところにも用意するというのに...

不可解だな。



...当のひとみはどこへ行った?

こうも彼女の気配を感じることができないとは...



まるで、また一人この世界に取り残された気になる。
彼女を失い、また一人になってしまうのではないかと心が揺れる。
ひとみの姿が見えないだけでこんなにも精神は不安定になるものか。

ただ好きだという気持ちだけでなく
ただ愛しいという気持ちだけでなく
彼女の存在に、彼女に依存してしまっているのかもしれん...
それなら今の心情に納得がいく。

怒らせてしまっているのではという緊張は
いつしか
彼女を失うことへの不安と恐れへとすり替わっていた。





「......つぅ」






吐息とともに吐き出されるような
弱弱しく言葉にもなっていないような

そんな声が

静かな部屋に

微かに響く。

今聞こえてきた声に似た様子のものを
今まで何度も聞いたことがある。
私も何度か発したことがある。

...痛みに耐えているときに漏れる声にそっくりだ。



「ひとみ!!どこだ!!」




それに気付いて、弾かれたようにひとみの名を叫ぶ。



一体どこだ!?

ひとみの身に何かあったのか!?



耳を澄まし気配を探るも、この部屋からは感じない。

寝室か、空き部屋か、洗面所か、一体どこだ!?

他の部屋を探そうとリビングから出ようとすると、
背後からまた、今度は泣いているような弱弱しい声が聞こえてきた。



「ろ、ぃ?...ろぃどこ?ロイ...ッフ、クッ...こえ、聞こえたと、思ったのに...」



聞こえてきた声の方へ半ば走るように向かう。
今度は長く声を発してくれて助かった。
おかげでひとみがいるであろう場所を特定しやすい。

向かう先は和室。

まさか和室にいるとは盲点だった。
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