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目を覚ました時に私の姿がなければ、また不安にさせ、涙を流させてしまうかもしれない。

だがこのままでは集中もしにくいし、スッキリしたい。

すぐに戻ればいいかとトイレと洗面所に向かった。





ジャー





トイレで排泄欲を満たし、洗面所で手と顔を洗う。

あぁ。
心も頭も冴えてきた。
これなら読書にも集中できるだろう。
ひとみの待つ和室に早々に戻るか。

そう思い、鏡に映った自分を見ながら、タオルで水気をとった自身の両頬をバチンと叩いて気合いを入れ直す。

そして我が目を疑うことになる。










「っつ...どういうことだ?」










頬に当てているはずの


自分の左の掌が


ない。





一体どういうことだ?

そのまま鏡を凝視し
何度瞬きしても
左手だけが見えない。

見えないのか?

それとも消えているのか?

しかし左頬には、手が触れている感触はある。

理解できない現象があることに慣れてきたと思っていたが、やはりそれは思い違いのようだ。
早く、少しでも情報を集めなければ。

しかし、どうしたものか...
こんな状態をひとみが見たらどうなってしまうことやら...
発狂してしまうんじゃないか...?
想像しただけで血の気が引いてくる。

鏡越しではなく直接自身の掌があるべきところを凝視するが、何も見えない。
右手でつねってみると、痛みはある。

早く和室に戻らなければならないというのに
困ったな...





そう思っていれば
今度はなんの前触れもなく姿を現してくる掌。

本当に、一体なんだというんだ?

まぁ元に戻ってくれたおかげで、
ひとみのそばに戻り、眠る彼女の傍らで情報収集できるのだが...

まだ安心はしきれんな。

次またいつその姿が見えなくなるかわからん。
姿を消すのは左手だけではないかもしれん。
見える部分だったから今回気がつくことができたが、消えていたが服で隠れたところだから消えていることに気がつかなかったということもあり得る。

このこと
ひとみにはあまり勘付かれたくないな。

左手を中心にできるだけ肌を露出しないようにしなければ...
しかしそれでは私も消えていることに気付くことは難しいか...

あり得ない現実についていかない思考。





まぁここで考えていても埒があかんと和室へ向かい
またも柱に背をあずけ
ひとみには私の左側が見えないように彼女の左の位置に座って左手で本を持ち
情報収集に集中することにした。
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