いつまでも夢に溺れていれたなら

□「お菓子といたずら、どちらをお望みかね?」
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目の前に立つロイは

真黒な生地のマントをはおり
その中はタキシードっていうのかな?
シュッとした黒のズボンに
白くて袖口が少しだけ広くなってるシャツ。
その上にはワインみたいな濃くて透き通った綺麗な赤色の生地のベストを来て
手には手袋。

ニッと笑う口元には、いつもなら見えていないはずの鋭い牙みたいな犬歯が顔を出してて

なんて言うのかな。

なんかもう、セクハラです。

その存在がセクハラです。

なに?
ちょっとその流し眼のしかた伝授してよ。
なんでそんな色気垂れ流してんの?
やだもう妊娠しそう。
やめてください、私には主人になる人がいるんです。



「お菓子といたずら、どちらをお望みかね?」



ニヤリと笑わないでください。
普段と違う服装にちょっと心が落ち着かないんです。
悔しいなんでそんなに似合うかなぁ。
かっこよすぎるんですけど。

ジリジリ寄ってこないでください。
その笑顔で迫ってこられると、なんかほんとに喰われてしまいそうな気さえするんです。

こんなドラキュラなら食べられてみたいかも...
なんてこと一瞬頭を横切ったけど、そんな怖すぎること無理です、堪えられません。
実は血見ると若干力が抜けるんです。



「おかし...おかし、台所にある。台所行けば渡せる。ちょっと、ちょっと待って。」

「ほう?今は無いのかね?」



やばい。

目が光った。

ドラキュラの目が光った。

笑顔が輝いてる。

ちょいちょいちょい近い近い近い



「それではしょうがないね。私も君にいたずらなどしたくないのだが、郷に入っては郷に従えという言葉もある。この世界や君を理解するには、この世界の文化にも積極的に挑戦していかなければ...」

「そう言ってるわりに目が爛々としてて楽しそうですけど。」

「そうかい?」



後→玄関のドア

横→白い衣装に包まれた腕とその奥にマント

前→ドラキュラ



ちょっとちょっと

なんで私の顔の両横に綺麗なシャツがあるの?
え、もしかして肘から先玄関につけてる感じですか?
体密着しそうなんですけど。
ドアとは密着してしまってるんですけど。
背中めっちゃっ冷たいのになんだか熱いんですけど。
息、息かかってるから!
いい香りするから!
やばい胸押してもびくともしない!
どんだけ鍛えてるんだ!
だめだ逃げられない!!



「どうしたんだい?」

「ちょっ、あの、近い。」

「頬が綺麗に赤く染まってる。」

「...っ、恥ずかしいから。」

「おいしそうだ...」

「おいしくなんかな、ヒィ!!」



どんどん近づいて、そのまま顔がそれたと思った。
ら、ドラキュラに耳の後ろを舐められた。
ぞわっとした。
なんでなんでどうしてこーなってるの??



「いただきます。」

「ちょ、ロイ、ほんとにおいしくないから。」



チクッ

刺されたような痛みが走る。

え、犬歯ですか?
私噛まれてます?
血吸われてます?
そこ骨あったよね?



「ん、やだロイ、こわぃ...」

「うまいな。クセになりそうだ。」

「お願いやめて。お菓子あげるから。」

「...もう少し、と言いたいところだが...そうだな。これ以上は止まらなくなりそうだ。」



名残惜しそうに私の顔の横に埋めていた顔をあげたと思ったら
今度は
私のほっぺたに柔らかい感触と、チュッというリップ音。

え?

なにが起きた?

思考が追いつかないんですが。



「ごちそうさまでした。」

「お粗末、さまでした?って違う!!」

「何がだい?」

「ロイ、今、血ぃ吸ってちゅーした!?」



すでに私から離れて、リビングへ続くドアを開きエスコートするかのように私に手を差し出しているロイに追いかけて事実確認のための質問をする。



「予想以上に驚かせてしまったみたいだすまなかったね。お詫びにディナーを用意してみたんだ。食べてくれるかい?」

「へ?作ってくれたの?」

「あぁ、疲れて帰ってくるだろうしと思ってね。お手をどうぞ?」



質問の返事になってないんですけど。
若干むくれながらも、疲れてるだろう私を気遣ってご飯を作ってくれてたことが嬉しくて、差し出して待ってくれてるロイの右手に自分の左手を乗せると
やっぱり電気のついてない真っ暗なリビングダイニングにエスコートされる。



パチンッ



指を鳴らす音が部屋に響くのと同時に、部屋中に光が散りばめられる。



「すごぃ...」



私はどこまでも単純なのかもしれない。

真っ暗な中にたくさん浮かぶオレンジ色の光がとても幻想的で、私のうちじゃないみたい。

よくよく見てみると、部屋中に置かれたロウソクに火がともってて、さっきの音はロイが指パッチンして火をつけてくれたんだとわかった。

あんなロウソクなかったもの、それも用意してくれたんだろーな。

光に照らされた、テーブルの上にすでにスタンバイされてる料理たちはとてもあたたかくおいしそうで。

ついさっきまで恥ずかしかったり怖かったりむくれてたりしてたっていうのに
今は驚きと喜びと幸せでいっぱいだ。



「気にいってもらえたかな。」

「すごいよロイありがとう!なんだか夢みたい!!すごくきれぃ!!」

「喜んでもらえたようでよかった。さぁ、食事にしようか。」










「ロイ、その服すごい似合ってるね。」

「よかった。この姿を見たひとみがあまりにポカンとしていたから、そんなに変なのかと。」

「ごめんびっくりし過ぎただけなの。すごいかっこよかったから...自分で作ったの?」

「あぁ。パソコンを見ていたらHalloween特集とかいうのをやっていてね。気になったから調べてみたんだ。」

「その歯は?」

「あぁ、つけ歯だよ。はずさなくては何も食べられんな。」

「あれ?じゃーやっぱり血は吸ってないの?」

「吸うわけがないだろう?いくら血を見慣れてるといっても君の血は見たくないからね。」

「じゃー...噛んだ!?」

「噛むわけがないだろう。」

「ならあの痛みはいったい...」

「さぁ、冷えてしまう前に食べようじゃないか。」

「あ、そだね。せっかく作ってくれたのにもったいない!!」



(ひとみが単純でよかった。恥じらい、頬を染めて胸を押し、見上げてくる君に欲情して、当初の予定では頬にキスするだけのつもりが痕までつけてしまったなんて言えるはずがない。)

 
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