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掌に向けていた視線をひとみに向けると、驚いた顔をしてこちらを見ている彼女がいた。
まさか自分の名前が出るとは思っていなかったんだろうな。
本当に、表情に出やすい人だ。
微笑ましい。
「え?そこでなんで私が出てくるの??」
「君は気付いていないんだろうが、いつも君には助けられているんだよ。
凍てつきそうな心を温めてくれる。
閉ざされた視界を拡げてくれる。
沈む心をすくいあげてくれる。
闇で満たされていく心に光を射してくれる。
今私が力を抜いて、こうして笑えるのはひとみがいるからだ。」
「言い過ぎだよ...私何もしてないよ?」
「気付かずにできているんだから、ひとみはすごいと思うよ。君がいなければ、まともに寝ることもできなかった...」
「...力になれてるなら、よかった。
でもそれをいうならロイもなんだけどね。私だって、安全上のことだけじゃなくて、心をロイに守ってもらってるの。ロイのおかげですごく救われてるんだよ?
......
ごめん、何言ってるんだろ。話そらしてまで...」
「いや...かまわないよ、ありがとう。」
何もしていないと謙虚なところはひとみらしく
自分は私に守られていると伝えようとしてくれるその姿に胸が苦しくなる。
私には誰一人として守ることなんてできないのではないか...
気を抜けばそんなことを考えてしまうこともあるんだ。
このひとみの言動がどれほど私に影響を与えてくれているか...
感謝の気持ちしかでてきないんだ
謝らないでくれ......
「それに夢といっても今はそこまでしか考えられていなくてね。」
「...どゆこと?」
「昔の夢はさっき言ったとおりなんだが、今の夢はと聞かれると浮かんでこないんだ。」
「昔の夢は今の夢じゃないの?」
「.....」
「皆を守りたいっていうのはもう夢じゃないの?」
続けて出されるひとみからの疑問は、先ほどと変わらずにまっすぐ投げられてくる。
あまりに重たいその問いは、心に重く圧し掛かり
ひとみの目を見ながら話すことができず、繋がれたままの手に視線を逃がしてしまった。
「...皆を守れるものなら守りたいと思うさ。
しかし、私一人の力などたかが知れている。
無理なんだ。
不可能なことを『夢だ』と言って、いつまでもしがみついていてもなんの実りもないじゃないか。」
「んー...でも、ロイは一人じゃないじゃない?仲間がいるし、支えてくれる人もいる。
一人の力は弱くても、集まれば力もつくしから、それはきっと何かを成し遂げるための大きな力になるわ。
それに、その気持ちを忘れなかったら、何か変わってくるんじゃないかなぁと思う...っていうか思いたい...」
「......」
「ねぇ、私の夢、聞いてもらってもいい?」
「...あぁ、もちろん。是非聞かせてくれ。」
「私の夢は、笑顔いっぱい幸せいっぱいな大家族を作ることなの。」
「素敵な夢だね。子どもが好きなのかい?」
「うん、大好き。大好きなの...」
続けられた彼女の言葉に何も言えないでいると
今度は自分の夢をと話だしてくれた。
ひとみらしい夢に体を支配していた緊張は緩み、顔の、体の力が抜けていくのを感じた。
しかし
私の質問に大好きだと返す彼女の顔に目を向ければ
彼女の顔は、なんとも形容しがたい、今にも泣き出してしまうのではないかというような哀しそうな表情をたずさえていた。
好きなものの話をするのにどうしてこんな表情になるのか......
緊張のとけた心は、すぐにまたそれを取り戻し、心臓が締め付けられた。
その表情の意味を知りたい...
浮かんだ疑問を声にする前に、彼女の口からその答えが坦々と語られていった。
坦々と語られているのに、どうしてだろう。
まるで泣き叫んでいるように聞こえた。