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ひとみの口から漏れる息がずっと震えている
肩だってカタカタと小刻みに震えているのに
ところどころ詰まりながらも
そのたび深く呼吸してゆっくり、しっかりと気持ちを言葉にのせて教えてくれる。

好きといいながら泣きそうな顔になっていた意味がやっとわかった...

クッションを握りしめて色をなくした愛しい人の手をとり
もう一度包み込むように握る

握りしめるのなら私の手を握りしめればいい。
人の体温はそれだけで落ち着かせてくれる。
それは君が私に教えてくれたことだ。
君が私にふれるだけで、私は落ち着くことができたし幸せも感じることができた。

一人で耐えようとしないでくれ...

そう想いを込めて
また二人を繋ぐ手から彼女の目を見つめると
ひとみは微笑んでまた話し出した。





「こんな問題を感じないですむように
子どもが笑顔で生きられる世界になるように

いつの間にかそんな夢を持つようになったの

世界政府みたいなところに入って世界変えてやろうなんて無謀なことも考えて目指したことがあったけど
やっぱり無謀でさ
世界政府っていっても、ルールを決めたって強制力はないから
法で定めても意味がないの
嫌なら従わなくていいんだもの

夢を持って絶望して...
私はなんて無力なんだろうって死にたくなった

そんな親不幸なことできなかったんだけどね

でも落ちてしまってる私を支えてくれてる人たちがいて見えてきたことがあるの

私は一人じゃないんだって...

同じように問題に関心を持って立ち向かってる人もたくさんいる

私は頭もよくないし、体だってそんな強くない
でも私にもできることはあるのかもしれないって思った


色んな問題や情報があっても公にでてこない
だから
全ての人が見て見ぬふりしてるわけじゃない
ただ知らないだけの人の方が何十倍も多いはず

なら知ってもらえばいい

知っても、身近なことじゃなかったら日々の生活に意識は薄れてしまうだろうと思う

なら身近に感じてもらえばいい


私にできる、私らしいやり方で


日本は島国で、鎖国なんてのもしてたから、他国との距離が精神的にも遠いの
外国人の友達ができたら、その国のこと身近に思えるでしょ?
いろいろな人とふれあえば、問題だっていつしか他人事じゃなくなるわ
それに教師だもの、学生に伝えたり考えさせる機会を作れる
そのキッカケづくりにも丁度いいと思ったから今の仕事を選んだの
関心の輪が拡がればいいと思う

笑顔は伝染するわ
幸せは拡がっていくものだと信じてる
だから力をつけて、大切な人が笑っていられるように守りたい
いつでも笑顔でいたい
人に優しくしたい
それを見た人が温かい気持ちになって
その気持ちを拡げてくれたらいいと思う

国を変えるとか世界を変えるとかそんなおこがましい考えは捨てて
先が見えないって思うような長い道でも
私は草の根作戦で行くことにしたの

私も一人じゃないから
支えてくれる人も同じ夢を持ってる人もたくさんいる
だから大丈夫

子どもたちが、みんなが笑って暮らせる世界になるって信じてるの

最近はちょっと心も弱くなって臆病になっちゃってたから、自分が嫌いでしょうがなかったんだけど
ロイのおかげでそれもストップできそうなの
心も体も強くして、夢のために頑張りたいって思ってる

ありがとうね?」




さっきまでとは反して
今度は聖母のように頬笑み続ける彼女は私の手を放し、私の頬に手を添えらた

あたたかい手だ

頬に添えられた手に自分の手を添えた





そうだ

夢をかなえるための道は一つじゃない...
世界中の人の笑顔を夢見るひとみが一つの道を選んだように、いろいろな方法があるんだ

私には支えてくれる、一緒に戦ってくれる素晴らしい仲間がいる



一人の力などたかが知れているが
その力を使って
僅かであろうと自分に守れるだけの、大切な人たちをなんとしても守っていく

守られたものたちが
また別の僅かなものを守る

その小さな積み重ねがいつか
まわりまわって全ての人々が笑って暮らせる世界をつくる



固く閉ざされていた扉が

開かれていく音がした





「ロイ?ごめんなさい、泣かないで?」

「ん?泣いてなど...ハハッ、いや、これは嬉し泣きみたいなものだ。謝らないでくれ。
ありがとう...」



いつの間にか目から体液が流れ出ていたようだ。
だからひとみは頬に手を当ててくれたのか...
この人にはみっともないところを見せてばかりだな。

だが君のおかげで塞がっていた未来への道が開かれた。
君に会えたこの奇跡に心から感謝する。
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