私の生きる道

□6
2ページ/2ページ




「お!ほんまに美味いなァ!茶ァが趣味なだけあるわ!」

「...」



ズズズ...



武田邸から少し離れた峠にあるこの茶屋に、蒼紫はよくくるらしく、店員のお姉さんは私の注文は聞いても蒼紫のは聞かずに持ってきた。

常連か。
どんだけ通ってるんだろう。
人もいないから静かで、風に揺れる木の葉の音が心地いい。
...一人で背負い込む癖のあるこの子に、少しでもお茶飲んで落ち着けるところがあるならよかった。

二人並んで茶をすすりながらそんなことを思った。







「何故武田邸に来た?」

「自分らに会いに来たんやん。」

「何故俺たちがあそこにいると?」

「般若さんにも言うたけどな、これでも東京来て長いねん。仕事柄、嫌でも情報入ってくるねんで?いいことも悪いことも。」

「仕事?」

「ん?聞きたいか?警察の密偵の密偵やりながら主婦しとります。よろしゅうに!」

「っ!?」

「なんや、変な顔して。」

「いや......瞳が...結婚......そうか......」

「なにぼそぼそ一人で言うとんねん。」

「...密偵がそんな軽く身元を明かしていいのか?」

「かまわんかまわん。勧誘するのにどこに勧誘されるかわからんかったら蒼紫も話乗りにくいやろ。」

「勧誘だと?」



今何してるかって聞かれて答えたら
蒼紫の細い目が、『え?本当はそんなに瞼開くの?』ってくらい大きくなった。
一瞬だけど。
その後なんかボソボソ言ってたけど、まぁ隠密してる人に密偵だなんて軽く打ち明けたらそりゃ衝撃も受けるよね。
でもそんなに目を開くほど衝撃だったのか...
繊細になってるのかしら。



「自分からも聞きたいことあんねんけどな、なんであんなカスのとこで用心棒なんかしてんの?」

「カスだろうと何だろうとかまわん。あそこにいれば戦える、そう思ったからだ。」

「それだけか?」

「あぁ。」




一つ納得できた。

一さんの部下が密偵に入ったのを蒼紫たちが気付かないわけがない。
ただ用心棒として雇われてるなら、密偵への対応だって依頼されてなかっただろうし
戦うことだけが目的なら、密偵なんて興味もないだろうしね。

無視したんだろう。




「なら俺のとこ来ィや。こっちと違ってあんなカスのとことか小物しか集まらんで?類は友を呼ぶって言うしな。

あんなゴミのところで用心棒とか、江戸城の警護を務めとったお庭番衆の名に泥どころか肥やし塗りたくってるようなもんやん。」


「...いくら穢れた道であろうと、俺はあいつらを見捨てることはできない。
頭として
あいつらが生きる道を、生きられる場所を作ってやらなければならん。」



二つ目の納得。

やっぱりか。
相変わらず責任感が強いというか、情に篤いというか...
安心して勧誘できる。
蒼紫は、お庭番衆は、そんな汚いとこいちゃだめだ。
持ち合わせた戦う術を生かすことはできても、皆の優しい心はどんどん息苦しくなるだけだもの...



「その意識は大事や思う。その点は立派な頭やで?
でもな、今いてる場所は悪すぎる。まぁ選べる選択肢がなかったんやろうけどな...
その分今、俺が新しい選択肢与えたる。」



馬鹿な子ほどかわいいっていうけど
私にとって蒼紫はそれに当たるんだろう。

責任感が強くて、優しくて、不器用で...

不器用な優しさはちょっと一さんに似てる?
でも一さんと違って、蒼紫はすごく不安定なところがある...

元服してすぐにお頭の地位に着いたらいいからしょうがないかもしれないけど、
もう少し素直になればいいのに
もう少し助けを求めたらいいのに
もう少し自分を大事にしたらいいのに
なんでも背負おうとしないでさ...

それができなかった分、少しでもいい。
私が甘やかしてあげる。
息苦しいなら、
私が空気を送ってあげる。
空気を送る術を教えてあげる。

可愛い可愛い、弟みたいな蒼紫のために。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ