U

□66
3ページ/3ページ






脱力して抱きしめられるがままだった両腕をひとみの背に回し、まるで子どもをあやすかのように優しく抱きしめて背を叩き声をかけた。



「どうした?
怖い夢でも見たのか?
もう大丈夫だ、私がいるから。」



すると強張っていた体の力が抜けていき、腕の力も弱まって静かに綺麗な雫をその瞳から流しだした。

かと思えば今度は自分から距離をとり、何やら私の腕を見て号泣しだす...


...

本当に何があったのか...



止まることのない涙をそのままに、肩を震わせてしゃくりあげる姿から
涙の理由はわからないが、泣くなら私の胸の中で泣いてくれればいいのにと思った。

恐る恐るこちらを見上げてくる表情に
何に不安を感じ、恐れているのか、聞きたくとも聞くことはできなくて



「どうしたんだい?おいで?」



安心させるように微笑めば腕の中に飛び込んでくるひとみを、今度は強く抱きしめた。



「ロイが、ロイがすごく苦しそうにしてて、体が消えていこうとする、夢を、みたの。」



胸元に埋められた顔から聞こえてくる言葉に、一瞬心臓が止まるかと思った。

『苦しそうにしてて』というのはわからない

今日気付いたばかりだが、体...というか掌が確かに消えることがある。

恐らく近い未来、彼女の前からも私という存在は消えていくんだろう。

...リザやヒューズに見えなかったように、この人にも見えなくなってしまうんだろう。

だが...



「っ......そうか。だが大丈夫。私はここにいるよ?」



なんの予知夢なのか、夢で私が消えていくのを見てこんなに取り乱すひとみにはやはり真実は伝えられなくて



「ハハハ、ひとみは心配性だな」

「ロイには負けるもの」

「そうだな...そうかもしれない」

「起きてロイ見たら苦しそうにしてるし...」

「あぁ...」

「ロイも怖い夢みたの?」

「そう...だな......」



そうだ。
私も夢を見ていたのかもしれない。
唯の夢を見ていただけなのかもしれない。

あんな、生々しい夢を...

夢とは思えないような夢を...

夢であれ、ヒューズやリザの無事な姿を見ることもできた。
悪い夢ではない。

それに私が皆に見えなかった以外は
忘れてはいけないことや知れてよかったことだ。
本当にイシュバール戦が終わっているというのならそんなにいい知らせはないじゃないか。



「そっか...私がいるからもう大丈夫だからね?」

「心強いよ。目覚めて君に抱きしめてもらえていたからね、すぐ落ち着くことができたよ。」

「ヘヘ、よかった」

「ありがとう」

「こちらこそー」



泣きながら笑って「よかった」と言ってくれるひとみに感謝の言葉を伝え
ただただ強く抱きしめた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ