私の生きる道

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武田邸についてから

やはり俺の部下ということで僅かでもこの屋敷に滞在するのだからこの館の主に挨拶した方がいいだろうと言いだした瞳は不敵な笑顔を浮かべて俺に案内を促がした。

別にこの屋敷に滞在するからといってもわざわざあんな下種に顔を見せることもないだろう...

瞳ほどの腕があれば気配を消して最後まであの男と顔を合わさずやり過ごすことも可能のはずだ。



俺としては会わせたくない。

アレの視界に瞳が入るなど

アレに瞳の存在が認識されるなど

......考えただけで虫唾が走る。



しかし
俺が案内を渋り、止めるのもまともに聞こうともせず
あんなに会いたがっていた4人に会いに行く前に「面倒事は早く済ませるに限るやろ」と我が道を行くかのように武田観柳の私室へと迷いもせず足を進める瞳の歩とまとう空気は
先程の俺の心配は無駄だと言うかの様にやはり密偵の務めを果たせているのだろうことを感じさせた。

俺の道案内なしに迷いなく進めれるあたり、先日入っていたどこぞの間者はこの人のところの者だったんだろう…下調べも万全であることがうかがえる。

わざと足音を立てて力強く床を蹴り、先刻からは想像もつかない程凍てついた空気をまとう瞳に、それほど嫌なのなら顔など見に行かなければいいのにと口にでそうになったがその場の雰囲気にそれは音として発せられることはなく、廊下にはただ瞳の足音だけが響いていた。











...

......

.........



「どーも!新津いいます!よろしゅうに!」

「数年前まで俺の右腕をしていた男です。今回の獲物はなかなかの大物ですから呼びよせました。」

「ほぅ...これはまた......」



武田の私室を訪ね、さっそくの満面の笑みで挨拶をする瞳の紹介行う。

満面の笑みのはずなのに、その雰囲気は鋭く冷たい。

よっぽどこの男が気に食わないんだろう。
まぁそれももっともだが...

しかし武田は
瞳のそんな気配にも気付かんのか
それ以上に気になることがあるのか
下卑た笑みを浮かべてじろじろと瞳を見定めるように窺っている。

言葉はなくとも、この男の考えが手に取るように伝わってきた。



「またこれは綺麗な人ですね...
右腕といってもそう強いようには見えない。
小姓ですか?」



......今この場で切り捨ててやろうか

どんな目で瞳を見ていやがる

今後の進む道が見つかったからもあるだろうが、今までならこんなことは考えなかっただろう。
瞳に向けられる下心を含んだ目とにやける口元に、今までにない殺意を覚える。

だから瞳をコレの視野に入れたくなかったんだ...



「身の回りのお手伝いもしよったけど、これでもけっこーやるんやで?その身で体験してみるか?」



そして武田の下種な質問に艶を含んだ視線を投げかけ、まるで遊女が床に誘っているようにしか聞こえない言葉を紡ぐ瞳に一瞬思考が鈍くなる。

何を言っているんだこの人は。



「ほぅ...それは是非お願いしたいですね。」

「お、ノリ気やん?ほんならいつがええですか?」

「何なら今すぐでもかまいませんし、夜でもかまいませんよ?」

「せやったら今すぐ始めます?せっかくなんや、早い方がええでしょ?」

「クックックッ、いいですね。では御頭さん、彼を
借りますね。席を外していただいても?」

「自分としてはいてもらっても全然問題ないんやけどなぁ。」

「おや、見られるのは好きですか?なら御頭さんに見てもらいましょうか。」

「ほんなら安心して全力出さしてもらいますわ。」



色気を存分に含んで艶やかな雰囲気を増していく。
それは、話すにつれて膨れ上がってくる殺気や剣気を少しでも隠すためだろう。

それに気付かずにニヤニヤと笑みを深めるこの男は何と愚かなのか。

恐らく瞳も内心キレているんだろうことも、故にこのまま斬ってしまおうかと思っているんだろうことも簡単にわかるのに、わかっているのに

表面を繕っているだけの瞳の雰囲気と
それに便乗して続けられている武田との会話に
目も耳も腐りそうで我慢ならん。
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