私の生きる道
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茶屋の近くの道まで本気で走って来たんですよ。
えぇ、それはもうあっという間で着きました。
さすがに店の前まで走ったら怪しいでしょう?
どんだけ茶屋にきたかったんだってなるでしょう?
だからあくまで茶屋の近くの道までなんです。
いやーやっぱり男の恰好は楽でいいですよね。
だって裾を気にしなくていいし動きやすいし。
だから距離はあっても、楽に動けるものだから、いっこも疲れないというか。
ただ服装は乱れてるだろうからと思って、お茶屋さんのお嬢さん驚かせたくないし、服を整えてからお茶屋の前の通りに出てお茶屋に向かったんです。
もうウキウキですよ。
予定の時間より早く着くように頑張って走ったんですから。
待ってる間に美味しく一服させてもらおうと思って。
まさか先に来られてないだろうと思ってたんですよ。
それでね、絶対先についたはず!なんて目印の石田散薬の印の入った薬箱を一応確認したんです。
そしたらね、
何ということでしょう。
茶屋に近づけば近づくほど
ハッキリとした印の入った薬箱と、それ以上に見覚えのある背中が見えてくるんです。
広い肩幅に、周りの人よりしっかりしてるのに線が細く見えるその後ろ姿。
珍しく帽子なんてものまで被って、制服でもなく着物に袴....
あれ、見間違えじゃないですよね?
一さんの密偵の時の恰好よね?
え、なんで?
もしかしてもしかして心配して部下に任せず自分できてくれたの?
くぁぁあああ!!
こんな恰好してなかったら思いっきり飛びつくのに!!
今変装中だから見知らぬ人装わなきゃならないなんてなんてもどかしさ!!
でも話しかけずにはいられないこの気の高ぶり!!
一さんが来てくれるなら報告の場所蕎麦屋さんでよかったのに!!
もー一さん大好き!!
「兄ちゃんそれ何飲んでんの?美味そうやなァ。」
「これですか?蕎麦茶ですよ。ここのは絶品ですからねぇ。」
「ええなぁ...ほんなら俺もそれもらおかな。あ!ちょっと姉ちゃん!この兄ちゃんと同じ茶ァお願い!あと胡麻団子もな!!」
「いらっしゃい!少々お待ちくださいね!」
「はいよー!」
「...胡麻団子ですか。朝から重そうなもの食べるんですね。」
「今日は忙しィなるやろからな、燃料補給しとこか思て。」
「ほう。」
「まぁ言うても忙しなるんは日が暮れてからやろけどな。あ、ここ座ってもかまわへん?」
「かまいませんよ、どうぞ。」
「おーきに!」
―おまけ―
今回の仕事を伝えた時の瞳の動揺の仕方...
実際幕末に見てきた瞳と抜刀斎の間柄や
暇を見つけては抜刀斎を探しに出ていた瞳の気持ちを考えれば
あの動揺も当然なのかとは思うがやはり気にかかる。
三年近く共に生活してきたが、今回の仕事の話をしてからの瞳は外面は相変わらずのくせに妙に不安定だった...
昨日の朝も任務に出るときに無理に作られた笑顔に、今回はさすがの瞳でも不安を感じていたんだろう...
気になり出すと、瞳が任務に出て間もなくだというのにそのことばかり考えてしまう。
......俺らしくもない。
瞳の腕は敵方だった俺が一番知るところだというのに...。
昨日から家にも帰らず煙草の量も増えるばかりだったが
この速さだと予備の煙草も間にあわん。
......様子でも見てくるか。
そう思って
途中報告を聞きに行く部下を呼びだし、自分で行く旨を伝えて早朝から茶屋へ足を運んでみれば
この明るさだ。
昨日の朝のような無理して繕われた笑顔ではないことは一目瞭然。
この分なら心配いらんだろう。
会話の節々からわかるのは、早いことにもう事が動き出すらしいということだ。
それなら明日には帰ってくるだろう。
その時にでも話を聞いてやるか...
暫く、
どこか嬉しそうな瞳と並んで座り
知らぬ者同士を装って茶を楽しんで
何気なく託された紙きれを取って庁に戻った。
茶の間に聞いた「今晩忙しくなる」ということと、わたされた紙きれの中身を見て笑みがこぼれる。
さて、署長でも呼びだして今日の話をつけておくか。