歯車T

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「あの、どうしました?大丈夫ですか?」

すぐにその人は目を開き、とても驚いた顔をして私の腕をつかんだ。

ヒッと声ともいえない息がもれる。
まさかそんな表情されるとは思ってなかったし、ましてや腕を掴まれるなんて予想外だ。

それだけでも十分に私をビビらせるというのにその人は掴んでいる私の腕をまじまじと見た後、私の顔を見上げて「君には私が見えるのか?」なんて言い出した。

背中がぞわっとした。この人は何を言っているの?
頭の中が真っ白になるってきっとこうゆう状況を言うのね。
もーやだ。
わけわかんない。
何この人。
涙でそう。。。

きっと私はひどい顔をしていたんだろう。その人は「すまない。」と手を離して、安心させようとしているのか、優しく微笑んだ。それは逆に恐怖心を駆り立てるものになったんだけど。
でもそんなこと一瞬で頭の中から飛んで行った。

男の人が放した私の腕には、赤い跡が付いていて、それはすぐにその人の額から流れるものと同じものだと、何故か理解できた。
黒に近い濃紺の服と思っていたものも、よく見てみれば斑でボロボロ。少し破れた肩と左
脇腹を中心にその黒い色が拡がっている。服だけでなく地面までその色を拡げようとしているその色に、「怖い」なんて考える余裕がなくなった。

「大丈夫ですか?出血がひどいみたい...すぐ救急車呼びますね。」

鞄から携帯を出そうとして思いだす。
そういえば携帯は今日忘れたんだ。こんな時に限って...
ここから家までは歩いて1分もかからない。走って帰って携帯とタオルをとりあえずもってこよう。止血出来そうなもの今持ってないし。

「すみません。すこし待っててください。携帯とってきます。すぐ戻るので」

「救急車とはなんだね。携帯...?」


焦って行動しようとする私の言葉にかぶせて聞いてきた質問に、暑さと傷で頭がぐちゃぐちゃになってしまってるのかもしれないと「あなたみたいに急な病気や重症の人を応急処置しながら病院へ連れて行ってくれる車ですよ。」と安心させようと説明し、その場を離れようと立ち上がると、また男の人に腕を握られる。

「なるほど。ありがとう。
だがこれぐらいのことはよくある。呼んでも意味はないだろうし呼ぶ必要はない。それよりも聞きたいことがあるのだが少しかまわないだろうか。」

これぐらいのことはよくあるって...
この人はやっぱり少し危ない人かもしれないなんて思ってしまった。
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