歯車T

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玄関に入ると、まず座らせてリビングへ通じるドアを開ける。犬を飼ってるから夏の日中はエアコンをかけっぱなしにしてるから、すぐに涼しい風が玄関へとながれこんでくる。
家中からダッシュでタオルやら救急箱やらミネラルウォーターやら使えそうなものをがんがん集めて玄関に戻った。
傷口に当てられた男の手を外し、応急処置のために服を脱いでもらう。血の色に黒く染まった服を見て、本当の色はどんなだったんだろうと少し気になった。脱いだ服を床に置いたとき、ボトリというような重い音が聞こえた気がした。

傷口は切ったでもなく擦ったでもなく、見たこともないような抉れたようなもので、どうしてこの辺りでこんな傷を負っていたのか、背筋がぞっとしたが、手は休めず軽く水で傷口を流してアルコールかけてタオルで圧迫していく。
顔をゆがめてときどき「うっ..」と声を漏らすこの人に、ほら見ろ痛いんじゃない。なんて思った。救急法習ったこともあったけど、それも数年前の話でうる覚え...こまめに復習しとくんだった...しかも救急車がくるまでのしのぎ程度のことしかしなかったし、見たことない血の量に傷跡。頭はショート寸前。
そんな私に気付いた彼は落ち着いた声で戸惑っているところを優しく説明してくれた。そのおかげでけしてきれいとはいえないけど、なんとか包帯までまけてひと段落することができた。

汚れたズボンも脱いでもらい、濡らしたタオルで体の汚れを軽く落としてもらってから、スウェットをわたして着てもらうことにした。
血みどろの恰好で外に放り出すのも、リビングへ案内するのもいやだもんね。私の背が高くてよかった。渡す着替えに悩まずにすむ。
終わったら声をかけるように伝えてから彼が着替えてる間に玄関に放ったらかしになっていた買い物袋を台所に運び直していく。さすがに脱いで拭いて着てって流れは見れん。...豆腐はもう駄目だろうな。表面めっちゃ膨らんでる。安売りしてたから2つ買っちゃったのに...

「すまない。家もタオルも酷く汚してしまった。」

地味にへこんでいると後ろから声をかけられた。なんて青白い顔をしてるんだろう。

「汚れたら綺麗にしたらいいだけの話だから、気にしないでいいですよ。服、洗濯し終わるまで休んでってください。酷い顔色...」

「...ありがとう。気遣い嬉しいが、後を頼んで一人悠々と休むのは忍びない。何か書くものと紙を借りられるかな。」

「はぁ...これでいいですか?何に使うんですか?
...一応渡しておきますけど、大人しく休んでてくださいね。じゃないと尚更気を使わなきゃいけなくなっちゃうんで。」

「本当にひとみは優しいね。大丈夫、すぐに終わる。これでも私は錬金術師なんだ。」

何をいっているんだこの人は。「レンキンジュツ」...聞いたことあるけどなんだっけ。
彼は徐に渡された紙にペンを走らせている。何を書いてるのか少し、ほんの少しだけ気になって横から覗き込むと、何やら文様のような模様のような何かを書いていた。ところどころ英語のような横文字も書いてある。

...もしかして頭、血足りなくておかしくなっちゃった?
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