歯車T

□7
1ページ/2ページ

「ところでひとみ、敬語とさん付けはやめてくれないか。」

「え、無理。」

「無理か。即答か。...何故?」

「その...なんと、なく...?」

なんとなくなんて理由では納得してくれないようで、視線で続きを促してくる。いいよどんでいるとこの男は...

「私も敬語を使ったりした方がいいかな。」なんておっしゃってくださってもう...その笑顔が憎たらしい。

「それはやめてください。」

「ひとみはやめてくれないのにか?」

「だって.....じゃあさん付けやめて少佐って呼びます?」

「やめてくれ。私は君の上司でなければ、ここは戦場でもない。ひとみみたいな部下がいても、戦場には連れて行きたくないな。」

「...私はあなたのことを尊敬しているんです。初めにいったでしょう?ロイさんみたいな上司がいたらどこまでも付いていきたいって。支えたいって。」

さっきまでの楽しそうになっていたロイさんの顔に影をさしてしまった。私は馬鹿だ。忘れていいことじゃないけど、やっと心が落ち着いてきたみたいだったのに...

「...私は君に尊敬してもらえるような人物じゃない。」

「ロイさんは自分のことを過小評価し過ぎです。会ったばかりのお前に何がわかるんだって思われるかもしれないけど..私にはないものをたくさん持ってる。優しくて、不器用で、大切なものを見失わず大切にできる。地獄をみても負けずに、諦めないで立ち向かう、そんなロイさんのことが私大好きなんです。...私、あなたに幸せになってほしい。」

話しているうちに、いろいろ思い出した。
イシュバールでの悲劇と心に受けた大きな傷。自分が裁かれる側になろうと、夢のため、国のために全力を尽くす。この人はなんと苦しい道を歩むのか。私にはその思いは想像することしかできないし、実際どうかなんかわからない。
...だめだ。
気づけばせき止められてた何かが溢れ出しそうで、このままじゃ、ただでさえボロボロのロイさんを困らせてしまう。慌てて笑顔を繕った。

「すみません、なんか私も疲れてるみたい。二人とも今日は早く寝なきゃですね。」

下を見て言うと、前から手が伸びてきて、私の目の下を壊れ物を扱うかのようにそっと拭った。

「え?」

「こちらこそすまない。ありがとう。」

彼のその動作で、涙が流れてしまっていたことに気付いた。やっちゃったなぁ。困らせたくないのに。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ