歯車T

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朝食時、今日の予定が決まった。ある程度決まっている方がメドをつけて動きやすい。


さて。


まず始めにひとみに読み方を教えてもらうために何をすべきか...言わずもがな。食器の片づけを手伝うことだろうな。昨日ひとみがしていたのを軽く見ていたし、手伝うぐらいできるだろう。

「手伝うよ。その方が早く終わるだろう?」

「ケガ人の手は借りません!座ってて!
...でもなにもせずにただ待ってるのは嫌よね。」

私の気持ちを察したのだろう、彼女は片づけの手を止め、ダイニングテーブルの近くに置かれている棚から、何やらプリントを手にし、私に差し出してきた。

「これは?」

よくわからない模様の羅列に、少し頭が痛くなる。

「50音図表っていうものなんだけどね。これが平仮名で、その左側に小さく書いてるのがカタカナっていう日本語の文字なの。一番上に書かれてる文字と、右端に書かれてる文字を組み合わせた音が、その文字の読み方。」

丁寧に説明していってくれる。
ルールがわかれば簡単なものだな。
オマケにと、書き方が書いてあるプリントと、練習用に裏紙、筆記用具をわたしてくれた。
後は見たときにそれがすぐに出てくるかどうかか...。
覚えるか。

...覚えるか。この模様を。

どう見ても文字には見えないこの模様を...




「じゃあ私、ちょっと家事しちゃうから覚えて待っててください。じゃなくて待っててね。」

「わかった。」

了承の言葉を聞いたひとみは、「なかなか敬語抜けない...ダメだなぁ。もう少し考えながら話さなきゃ...。」と小さく呟きながらキッチンへと戻っていった。

癖というものはなかなか直すのが難しいから癖というのだ。私が無理をいって頼んだからとはいえ、私を思って頑張ってくれていることが嬉しい。

私も頑張ろう。

気合いを入れ直し、表と向き合った。











ゴウンゴウン

ワフッ

「こら!吠えちゃだめ!!」



ひとみの声に意識が浮上する。
集中していたからか、今まで聞こえなかった機械音と、犬の鳴き声が聞こえてきた。
時計をみると30分程たっていた。
顔をあげて周りを見渡すと、ひとみがリビングのゲージの中にいる犬に餌をやっていた。
私の視線に気付き、謝ってくる。

「ごめんなさい、邪魔しちゃって。ユキったらさみしかったみたいで...普段はあんまり吠えないんだけど、相手してほしい時とか興奮したら吠えちゃうの。」

「ユキ?」

「この子の名前。大人しくさせるから、」

「かまわんよ。元気があっていいことじゃないか。」


ひとみに怒られたユキと
邪魔してしまったと思っているひとみ

二人並んで落ち込む姿はなんとも微笑ましい。
似た雰囲気を感じる。
自分の顔の力が緩むのが、自分でもわかった。
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