歯車T

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手伝うよと
何でも言ってくれと
何度も言っても

頼んでくれないひとみ
頼ってくれないひとみ

焦ってせわしなく動くそんな彼女に何をしているのか尋ねてみると、少し切羽詰まったように「散歩に行く」という。

もう直に日も落ち、太陽を失った世界は電気が普及している町であろうと、闇で包み込むだろう。

この世界がどうかはまだ知らないが、私の世界ではこれからの時間を女性が一人で出歩くなど危険極まりないことだ。



心配だ。



「一緒に行こう」と言っても「悪いし邪魔したくない」と断わろうとするひとみに頭を抱えた。

貴女が一人ででたら...
何故だろう。
想像しただけで心配でしょうがない。
こんな状態で、情報収集に集中できるはずがない。
できたとしてもすぐに途切れてしまうだろう。

「息抜きに」と伝えると、少し間をおいてやっと了承を得られたことに、安堵の息がもれた。




それからすぐに家を出た。

嬉しさのあまり常に前のめりで首輪が喉を絞め、時々せき込みながらも前のめりを一向にやめないユキ。
「ゆっくり歩いて。」と注意しながらユキを微笑ましく見つつ、時々私を見ては私のペースに合わせてくれるひとみ。

そこまで心配してもらわなくても大丈夫なのだがね。

なんだかむず痒い。

ひとみの少し後ろを、彼女の後姿を見ながら歩く。
女性にしては背が高く、細すぎず太くもない、健康的で魅力的なラインを持つその後ろ姿を見ていると、時々何かに怯えるようにビクッと震えることに気がついた。

「ひとみ?」

「なに?」

振り返ったひとみの表情は少し硬い。

散歩の準備をしていた時にしていた表情。
散歩に出るときには一旦その影をひそめていた表情。

なんと声をかければいいだろう。

その表情の原因を知りたいが、聞き出すことでより悪化させてしまわないかも心配だ。

だが、彼女にこんな顔は似合わない。
簡単なことでも頼んでもらえないから、頼りないのかもしれないが、たくさん助けてもらっておいて、何も返せないのは嫌だ。
なによりひとみの笑顔が見たい。



「何に怯えているんだい?」



かといってこの質問はあまりに直球過ぎたかもしれない。



「えっ?あ...怯えてるように見える?」



眉を顰め、口の端を上げるひとみ...
そんな顔を見たいわけではないんだがな。

「あぁ。」

「やだなぁ、そんなことないよ?」

「...常にではないんだが、時々ビクッと肩が揺れている。それと同時に綱を握る手に力が入っていて白くなっている。ひどく不安定だ。私でかまわないのなら、話を聞くことぐらいできるが?」

「...」

「まあ人には言いたくないことの一つや二つあるだろう。無理にとは言わないが...」

「ロイ。」

「ん?」

「なんでもお見通し?」

「私もひとみにそう思ったことあるよ。」

「えーほんとに?」

「あぁ、君には敵わないなと思った。」

「私も今そう思ったよ。」

ユキが一人話す彼女を気にしながら歩く。
だからか、進むペースが落ちた。
ひとみの肩から少し力が抜けていくのがわかった。
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