歯車T

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『和真』





それがひとみの婚約者の名前らしい。





ひとみの口から

自然と当たり前のように何度も出てくるその響きに

胸がひどく痛んだ。





初めて婚約者の存在を聞いた時

まだ出会ってわずかだったのに複雑な気持ちになった。

少し羨ましく思った。



なんでも見とおされているようなのに

嫌な気はまったくしない上に嬉しいとまで感じた。



色々な表情を持つこの人を

もっと見ていたいと思った。



ペットに好きだと連呼し、キスをせがむ彼女を見て

ユキと入れ替わりたいなどとも思った。



そして笑顔を見るたび高鳴る胸。

癒され、あたたかさに満たされていく心。



人の心に敏感で、優しく、弱くて強い、光のようなこの人を

安心させたい。

頼ってほしい。

笑っていてほしい。





ひとみを守りたい。





私はこの気持ちが何かを知っている...





あぁ





気付きたくなかった。
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