歯車T
□17
1ページ/3ページ
『和真』
それがひとみの婚約者の名前らしい。
ひとみの口から
自然と当たり前のように何度も出てくるその響きに
胸がひどく痛んだ。
初めて婚約者の存在を聞いた時
まだ出会ってわずかだったのに複雑な気持ちになった。
少し羨ましく思った。
なんでも見とおされているようなのに
嫌な気はまったくしない上に嬉しいとまで感じた。
色々な表情を持つこの人を
もっと見ていたいと思った。
ペットに好きだと連呼し、キスをせがむ彼女を見て
ユキと入れ替わりたいなどとも思った。
そして笑顔を見るたび高鳴る胸。
癒され、あたたかさに満たされていく心。
人の心に敏感で、優しく、弱くて強い、光のようなこの人を
安心させたい。
頼ってほしい。
笑っていてほしい。
ひとみを守りたい。
私はこの気持ちが何かを知っている...
あぁ
気付きたくなかった。