歯車T

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...





「落ち着いてきたかい?」


両腕に込められていた力を弱め、背をさすると、徐々に落ち着きを取り戻していくひとみに声をかける。


「ん、ごめんね。」

「なんで謝るんだい?」

「だってこんなに泣いちゃって、困らせちゃったでしょ?」

「困るどころか、嬉しかったよ。」


ひとみを胸に閉じ込めたまま話を続ける。
泣き疲れたのかひとみは私に身を預けたまま。


「でも...」

「でも?」

「甘えてとか頼ってっていうくせに、言ってる本人がこんなんじゃ、安心して甘えれないでしょう?」

「そんなことは」

「あるでしょう?私ももっと強くならなきゃ...」

「ひとみ」

「ん?」

「私は君の涙に救われている。」

「へ?」

「さっきも言っただろう?嬉しかったと。
私を思って涙してくれる。
私が生きてることをこんなにも喜んでくれる君がいることに、私は救われているんだ。」


ひとみが私の胸を押す。
私の元から離れてしまう。
そう思ったが、この人は私の腕の中から出ずに、
腕の中で距離を作り私の顔を覗いてくる。
涙目に上目使い...に目を奪われている場合ではないな。



「でも、でも、私、思っちゃいけないこと考えちゃった...」

「例えば?」

「...」

「言いたくないかい?」

「...嫌われたく、ない。」

「なれるものか。そんなことに怖がる必要はない。」


本当に、嫌いになれたらどれだけ楽なことか。

まあ嫌いになれる選択肢があったとしても、
ひとみを想う幸せを知ってしまったのにそちらを選べるとは思わないが。




「...帰ってほしくないって思っちゃった...」



そう考えていると聞こえてきたのは予想外な言葉。



「ロイが、どれだけ残してきた人のことを大事に思って心配してるか知ってるはずなのに、
どれだけこっちで心細くて不安な気持ちや焦りを感じてるのか簡単に想像できるのに、
どれだけ強く戻りたいと思ってるか知ってるはずなのに、
思っちゃいけないことを...」


ずっと私と目を合わせていたのに、逸らしてしまい、俯いてしまう、私の愛しい人。


「どうしてそう思ってくれたんだい?」

「...んでほしくない...」

「ん?」

「ロイに...ロイに、死んでほしくない。
こんなにたくさん傷を負わないといけないような...今度こそ死んじゃうかもしれない。そんなところに戻らないでほしいと...思っちゃった...ごめん..ごめんなさい...」


また泣きそうになり、声も小さくしていくひとみを優しく抱きしめる。






正直驚いた。

そんな風に感じてくれると思わなかったから。



...謝らなくていいのに。

幸せ者だな、私は。






「ありがとう。」
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