歯車T

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「おはようひとみ。」

「おはようロイ。」


和室からリビングへ出ると、なんとも楽しそうにダイニングテーブルに朝食を並べていくひとみ。

窓から差し込む明るい光は、ひとみを照らすために存在しているかのようで
ひとみが輝いて見える。

いい天気だな。
晴れ渡った景色に笑顔で歌を口ずさむひとみ。

朝から力がわいてくる。
睡眠時間が短く疲れも抜けきっていなかったはずなのに、それも嘘のように感じない。


「昨日は休めた?」

「まぁ、そうだな。疲れはとれたよ、君のお陰でね。」

「?それはよかった。
今日は洋食ですよー。顔洗っておいで。」

「あぁ、どおりで懐かしい香りがすると思った。こちらにもパンはあるのだね。」

「あるんだなーこれが。
はい、せっかく焼いたのに冷えちゃうから早く早く!顔洗う!」





昨日が嘘のようにひとみが明るい。





ジャー

ジャブジャブ





背中を押されてリビングから洗面所の方へ押し出され
そのまま大人しく顔を洗ってダイニングへ戻るとやっぱり歌を歌っているひとみ。

短いフレーズで同じところを何度も繰り返して歌っているようだ。



...

かわいいな。

なんだあのかわいさは。



「上機嫌だね。」

「んー?ロイも機嫌よさそうよ?いい笑顔。」

「君の笑顔のおかげさ。そーいえば和真は?」

「ついさっき仕事へ行ったよー。だからもういません。
さ、ごはん食べよ?」

「そうだな、いただこう。」



ひとみとの5度目の食事。
私の食べる場所も決まったようなもので、それぞれ所定の位置に座る。

よくよく考えればこの家にはたくさん食器がある。
本当に二人暮らしを始めたばかりなのかと、片づけを手伝ったときに見て驚いたほどだ。

そんな数ある食器の中から、私が使うようにとひとみが出してくれるコップや箸、皿は、毎回同じ。

まるで私専用を作ってくれているようで、なんだかこしょばい。
ここが私の居場所かと錯覚してしまう。


...

幸せな錯覚だ。
朝からこんなに幸せを感じてていいのだろうか。


...

せっかく作ってくれた朝食だ。
温かいうちに食べなくては。





「いただきます。」

「はい、召し上がれ。
私もいただきます。」


それていく思考を目の前の食事に向け、
教えてもらった食前の挨拶をして久しぶりにも感じるパンに手を伸ばす。





ふむ。

こちらの料理はうまいと思っていたが、パンも少し違うのだな。
ふわっというか
もちっというか
弾力があって柔らかい。

これはうまい。
こちらの料理も向こうに持って帰れないものか...

ひとみも一緒に連れていけたら...

そこまで考えて急いで頭をふる。
それは無理だ。

そうだ。
あれだ。
レシピ。
作り方を教えてもらおう。
それがいい。
...それが一番いい。
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